まれっつっちゃあ、まれだが、感染症屋には割とよく見られるノカルジア。ちょっと瑕疵はあるけど、よく勉強しました。
【肺ノカルジア症について】
ノカルジアは放線菌目ノカルジア科に属する好気性グラム陽性桿菌で、弱抗酸性を有し、土壌中に広く分布する。Nocardiaの分類はいまだ不完全であるが、現在のところ6菌種がヒトに対する病原菌として明確に証明されている。そのうち、Nocardia asteroides complexによるノカルジア症が多く、肺ノカルジア症においてはその90%を引き起こすとされる。米国では年間約1,100例のNocardia感染の診断がなされるが、部位別では肺ノカルジア症が最も多い。下にノカルジア症の感染部位別の割合を示す(1。免疫不全患者の日和見感染としての頻度が高く、1050人のノカルジア症患者に対する報告では、その64%が何らかの免疫抑制状態であり(1、リスクファクターとしては、ステロイド治療、リンパ腫、固形腫瘍、臓器または幹細胞移植後、HIV感染、糖尿病があげられ、肺ノカルジア症については、COPDなどの慢性肺疾患、アルコール多飲などもリスクとなりえる。
Systemic (≧2site) |
Pulmonary(only) |
CNS(only) |
Cutaneous or lymphocutaneous |
Single site extrapulmonary (eg,ey,bone) |
32%(内44%がCNS病変を合併) |
39% |
9% |
8% |
12% |
【臨床所見】肺ノカルジア症は、典型的には亜急性に発症し、発熱、寝汗、全身倦怠感、食欲不振、体重減少、呼吸困難、咳嗽、などの症状がみられる。喀血、胸膜炎性胸痛などを伴うこともあるが、特異的な症状は乏しい。画像上も特徴的な所見を示さないことから、発症から診断に至るまでに要した日数の中央値が42日であったという報告もある(2。肺ノカルジア症のうち、約半数に肺外の感染がみられ、CNSに対する合併が最も多い。ノカルジアによる脳膿瘍の死亡率は単一で33%、多発で66%と高率であるとされる(3。何らかの神経学的異常を認めた場合には頭部CT、MRI検査を行うべきである。
【診断】前述のとおり特異的な臨床所見が乏しく、一般抗生物質に抵抗性の慢性肺炎の鑑別(特に皮膚症状、中枢神経症状を伴っている場合や、日和見感染のリスクがある場合)においては、その可能性が考慮されるべきであり、なかでも肺結核との鑑別は重要である。常在菌でないことから、喀痰中から検出されることの診断的意義は大きいといえる。グラム染色では、グラム陽性の分岐状、ビーズ状の菌体が見られ、Ziehl-Neelsen法、kinyoun法などで弱抗酸性を示す。培養については、分離自体は困難ではないが、コロニー発育に2~4週間を要する場合があることに注意が必要である。分離がうまくいかない場合にはパラフィン添加培地を用いるとよい。
【治療】治療については、薬剤感受性を加味して経験的治療が行われる。第1選択薬として古くから用いられているTMP-SMXについてさえ、感受性や耐性について複数の報告が存在するものの、報告ごとに大きな乖離があり、一定した見解は存在しない。治療に際しては、感受性の確認が必須である。その他、in vitroで感受性が認められ、一般に用いられる薬剤としては、Amikacin、imipenem、minocycline、netilmicin、およびamoxicillinとclavulanic acidの併用、があげられる。これらは、TMP-SMXと併用されることが多い。治療期間については、6~12ヶ月の長期治療が必要であるとされる。特にCNS感染と免疫不全例については12ヶ月の治療が推奨される(4。Linezoridの有用性も報告されおり、作用機序の違いから交差耐性を起こさない薬剤として注目されている。しかしながら、長期投与が必要であり、その費用および、副作用の問題から使用はいまだ限定的である(5。
【参考文献】
・Harrison’s Principles of Internal Medicine(17th edition) 992-996
・Up to date “Microbiology, epidemiology, and pathogenesis of nocardiosis”
“Clinical manifestations and diagnosis of nocardiosis” / “Treatment of nocardiosis”
1) Nocardia species: host-parasite relationships:Clin Microbiol Rev. 1994;7(2):213.
2) Pulmonary nocardiosis: risk factors and outcomes.: Respirology. 2007;12(3):394.
3)Nocardial brain abscess: treatment strategies and factors influencing outcome.: Neurosurgery. 1994 Oct;35(4):622-31.
4)Pulmnary nocardiosis:risk factors,clinical features,diagnosis and prognosis:Current Opinion in Pulmonary Medicine 2008,14:219-227
5) Antimicrobial-resistant nocardia isolates, taiwan, 1998-2009.: Clin Infect Dis. 2011;52(6):833.
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