脊椎椎体炎について
脊椎椎体炎(化膿性脊椎炎)死亡率はかなり低いが罹患率は高く、診断の遅れにより治療不可能な合併症を引き起こしうる疾患である。50才以上の患者がほとんどであり、男性の方が女性より発症率は2倍高い[1]。
>50% |
Staphylococcus aureus Coagulase-negative staphylococci |
>25% |
Streptococci Enterococci Psuedomonas spp. など |
<5% |
Mycobacterium tuberculosis Candida spp. など |
表1 椎体炎の起炎菌とその頻度[2] |
【病態】
病原体は以下の3つの経路のいずれかで脊椎骨に到達する[1]。
・感染巣からの血行性の遠隔転移
・外傷や脊椎の手術からの直接的な感染
・隣接する感染軟部組織からの拡散
椎体炎の原因菌として最多なのはStaphylococcus aureusであり(表1)、特に発展途上国では50%以上の症例で同定される。脊椎椎体炎では地域によってMycobacterium tuberculosisやBrucella spp.が多い[2]。
【診断】
菌血症を伴う背部痛の患者で考えるべき鑑別診断として、脊椎椎体炎の他に、背部以外への感染に非感染性の脊椎の疾患が合併している場合が考えられる。非感染性の脊椎の疾患としては、圧迫骨折、脊椎損傷、椎間板ヘルニア、脊椎変性疾患が挙げられる。また、腰痛や発熱、炎症反応がある症例では、腎盂腎炎や急性膵炎がまず疑われ脊椎炎が見逃されることが多い。しかしこういった症例では化膿性脊椎炎を必ず鑑別に挙げるべきである。
成人の脊椎椎体炎では、病変部周囲の潜行性の痛みや圧痛を訴えることが多いが発熱や悪寒等は少ない。
椎体炎の患者の血液検査所見では、赤血球沈降速度(ESR)が上昇することが多い。椎体炎やその他の脊椎感染に対する感度は76-95%であり[3]、ESRが診断に有用であるといえる。血液培養や生検による菌の同定は必須であるが、血液培養の感度は50-70%であり [1]、必ずしも高いとは言えない。
CTは使い勝手がよく、血行途絶による骨の壊死像やその周囲の骨組織の新生増殖などの探索に有用であるが、病初期の骨の構造変化がわかりにくいなどのデメリットがある。一方MRIは椎体炎に対する画像診断の中で最も感度がよいため、椎体炎の診断には通常MRIが用いられる。
症状や画像所見から椎体炎を強く疑った場合は、一般的に生検による菌の同定を行う。生検は、外科的もしくはCTガイド下の穿刺が望ましい。一度の生検で陽性とならない場合は再度生検を行う。
【治療】
脊椎椎体炎のほとんどでは安静と抗生剤投与で十分である。しかし、抗生剤が奏効しない場合や脊椎が圧縮されている場合、膿瘍のドレナージを行う場合(硬膜外、傍硬膜膿瘍によって神経が圧迫され麻痺が出現している場合はドレナージが必要となる)には手術が必要となる。
抗菌薬に関しては、軟部組織への感染や敗血症を併発している場合を除いて、生検培養の結果が得られるまでは投与を見送るべきである。投与期間は多くの場合経験的に4~6週間とされているが、明確な研究結果は得られていない。
治療効果は、画像所見、臨床症状、ESR値などにより総合的に判断する。
参考文献
[1] Vertebral osteomyelitis and discitis; Daniel J Sexton, et al.;Up to date, 4/5/2011
[2] Mandell,Douglas,and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Disease, seventh edition 1457-1461; Gerald L Mandell, et al.
[3] Diagnostic testing for low back pain; Thomas O Staiger, et al.;Up to date, 7/2/2011
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