というお題のレポートです。
サッカー選手ガリンシャが罹患した病気;ポリオ感染による急性灰白髄炎
◆疫学
社会経済的に恵まれない地域で多く見られ、特に人口の密集した地域や、衛生状態の悪い熱帯地域に多い。
ほとんどの乳児が生後6か月以内に感染し、一部は小児麻痺を起すが、多くは母から受け継いだ抗体によって守られ、不顕性感染となる。
◆発生病理
感染経路としては主に糞口経路で伝播するが、ウイルスが便と咽頭に存在する発症前後の患者が最も感染を広げるリスクが高い。
潜伏期間は7~14日である。
◆臨床像
感染しても90~95%は無症状である。
一過性のウイルス血症が起こったのち、4~8%で一般的なウイルス感染に似た症状(ex;頭痛、発熱、倦怠、のどの痛み)が起こる(不全型ポリオ)。これらが明らかな回復を見せた後、数日のうちに中枢神経に広がり、髄膜炎症状(ex;頸部硬直、頭痛、発熱、吐気)が現れる。続いて一部で運動神経の破壊が起こり、背中・頸・筋肉の激しい痛みを生じ、筋委縮が起き、麻痺となる。この頻度は、全ポリオ感染者の約0.1%であり、麻痺は症状の中ではもっとも頻度が低いが、成人よりも小児でより一般的にみられる。
筋委縮は通常非対称であり、遠位部よりも近位部で生じ、下肢(最も一般的)、上肢、腹部、胸部、延髄の筋肉に起きる。反射は低下あるいは消失し、感覚検査は正常である。延髄の麻痺は嚥下障害、構音障害、分泌物への対応の困難を起こす。また、誤嚥による呼吸不全、延髄での呼吸中枢の障害あるいは横隔膜か肋間神経の麻痺も起こる。
◆診断
急性灰白髄炎の診断は、臨床像と脳脊髄液検査による。脳脊髄液の検査では、リンパ球性髄液細胞増加がみられ、グルコース値は正常、蛋白質は上昇を示し、多形核白血球が早期にみられる。
診断はウイルス分離によってもされる。一週間目には咽頭分泌物から、数週間目には糞から分離される。
また、髄液・血清からのウイルス核酸を増幅するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)や、急性期と回復期の血清のウイルス滴定量を比較することからも診断される。
◆治療
急性灰白隨縁の治療は、鎮痛や理学療法といった支持療法である。
治療としての抗ウイルス療法は弛緩性麻痺に効くかどうかはまだわかっていない。
◆ワクチン
運動神経機能を回復させる有効な治療がないため、予防が大事である。不活化ポリオワクチン(IPV)は大部分の先進国で使用されており、経口による弱毒化ポリオワクチン(OPV)はポリオが現在発生しているか、最近発生した国々を含むほとんどの途上国で使用されている。
生ワクチン |
|
不活化ワクチン |
ポリオウイルスの毒性を弱めたもの |
特徴 |
毒を出さない状態のウイルスを使用 |
シロップ状で口から |
接種法 |
複数回の注射 |
無料 日本では補償あり |
費用とケア |
有料 メーカー補償あり |
1/25~50万人 |
副作用の発生確率 |
1/1100万人 |
◆参考文献
・UpToDate ; Polio and infectious diseases of the anterior horn , Zachary Simmons,MD , 2011,1,25
・DeBiasi,RL,Solbring,MV,Tyler,KL.Infections of the nervous system:viral infections.In:Neurology in Clinical Practice,4th ed,Bradley,WG,Daroff,RB,Fenichel,GM,Jankovic,J,(Eds),Butterworth Heineman,Philadelphia 2004. P.1515.
・Mueller S,Wimmer E,Cello J.Poliovirus and poliomyelitis:a tale of guts,brains,and an accidental event.Virus Res 2005;111:175.
・Cohen,JL.Enteroviruses and retroviruses.In:Harrison’s Principles of Internal Medicine,16th ed,Kasper,DL,Brunwald,E,Fauci,AS,et al(Eds),McGraw-Hill,New York 2005. p.1143.
・HARRISON’S INTERNAL MEDICINE 17th Edition p1208-1213
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