というお題でレポート書いてもらいました。5年生にしては、よくできていると思う。ま、研修医をスーパーバイズに入れているので(屋根瓦)、入れ知恵はされてるかもしれないけれど。ご苦労様
高齢者の意識障害において、頭部CTをとるか、血液培養を行うかについて
1.はじめに
意識障害時の鑑別疾患には、様々な原因が考えられるが、頭部CTをとる場合には頭部病変を疑っており、血液培養をとる場合には感染症を疑っていると考えられる。そのため、意識障害がこれらの原因で起こる時に見られる特徴的な病歴や身体所見が存在すれば、まず頭部CTをとるか、血液培養を行うかについての根拠になると考えられる。
2.この患者に頭部病変はあるのか
意識障害を来たした患者に頭部病変があるかどうかの判断材料の1つとして、バイタルサインがある。その中でも、収縮期血圧が有用で、その他に拡張期血圧、脈拍数も有用である。頭部病変のある患者では、そうでない患者に比べ、収縮期血圧が著明に高く(平均して57mmHgの差)、拡張期血圧は高く(平均して23mmHgの差)、脈拍数は著明に低い(平均して10beats/minの差)。[1]
なお、意識障害を来す頭部病変の一つとして脳卒中があるが、これに対しては以下のようにCPSS(Cincinnati
Prehospital Stroke Scale)を用いるというアプローチもある。
「頭部外傷や昏睡がなく、脳卒中が考慮されるような局所的な神経障害症状(視野欠損、顔面麻痺等)のある患者では、TIAや脳卒中の事前確率はおよそ10%であるとされている。
脳卒中の見込みは、㈰顔面の下垂、㈪上肢の肢位偏奇、㈫発語障害といった急性神経学的障害が見られる場合に増加し、CPSS(Cincinnati
Prehospital Stroke Scale)を用いると、㈰、㈪、㈫のいずれかの所見が存在する場合の陽性尤度比は5.5(95%CI:3.3-9.1)に達する。」[2]
3.この患者に感染症はあるのか
感染症の中でも血液培養の適応となるのは、菌血症あるいは敗血症が疑われる場合である。
敗血症の臨床症状は、患者の基礎疾患と原因感染症の症状と徴候が重なり合って現れるのが普通である。症状と徴候の発生頻度は患者ごとに違い、著しい個人差も見られるため、意識障害の原因の判断材料として使用するのは困難であると考えられるが[3]、菌血症のリスクを評価するものとして、悪寒の程度が挙げられる。
これは悪寒を訴えない患者に比して、寒気のためにジャケットが必要な(mild chills)患者は2.4倍、寒気のために厚い毛布が必要な(moderate chills)患者は6倍、厚い毛布にくるまっていても、極度の寒気と全身の震えを感じる(shaking chills)は13倍、菌血症のリスクが存在するというものである。[4]
また、敗血症においてはバイタルサインも重要であり、SIRSの定義として、「体温<36℃、or 38℃>、脈拍<90/min、呼吸数>20/min、白血球>12,000/mm3 or 4,000/mm3 の4項目中2項目で陽性」が挙げられるため、これらの所見が見られる場合には敗血症性ショックを疑う必要がある。
ただし、発熱に関しては高齢者の30〜50%で認められないため、悪寒等に比して診断的価値は低いものと考えられる。[5]
その他、「体温が1℃上昇するごとに心拍数が20以上増加する場合は細菌性感染症が疑われる」という「デルタ心拍数20ルール」というものも存在し、入院患者等ベースラインの体温、心拍数がわかる場合には有用になるものと考えられる。[6]
4.最後に
意識障害には様々な鑑別疾患が存在し、頭部CTも血液培養もオーダーし得るが、上記のような身体所見を行うことで、診断に対する検査前確率を上げることが重要であると考えられる。
特にバイタルサインは、意識障害により患者に問診を行うことの出来ない状況であっても、判断材料として利用可能であるため、有用性は高いものと思われる。
参考文献
1. Using
vital signs to diagnose impaired consciousness: cross sectional observational
study.
{BMJ. 2002 Oct 12;325(7368):800.}
2. 論理的診察の技術(日経BP社)p.631-643
3. 第3版 ハリソン内科学(メディカル・サイエンス・インターナショナル)p.1755-1762
4. The
degree of chills for risk of bacteremia in acute febrile illness.{Am J Med.
2005 Dec;118(12):1417.}
5. Evaluation
of infection in the older adult.(UpToDate. Last updated on 2/16/2011)
6. 臨床感染症ブックレット(文光堂)p.35-42
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