はあ、やってしまった。今日の宴席、ブッチしてしまう。せっかくの歓送迎会なのに、まったく失念していた。
疲労はピークに来ていたのである。昨日のシンポジウムは準備段階で緊張しまくり(緊張してたんです)、睡眠もほとんどないまま本番を迎えた。今日は今日で4年生に臨床医学を教える実習で、こちらはこちらで魂を削り取る作業だった。というのが、言い訳。
臨床実習では、疾患や患者の切り方が重層的で、複合的であることの大切さをお話した。どこまで伝わっていることやら。
昨日のシンポジウムでは、そのような複合性を考えたのだった。多くの人が異なる言葉で語りかけるポリフォニーを大切にしたいと思った。テレビの討論番組みたいに、簡単にまとめたくはなかったが、それぞれの「長い」話をうまく廻したかった。抑制のかからないような形で、話が流れるようにすること。できるだけ介入しないこと。そのことそのものが大変な努力を強いる作業だった(だから、疲れたのだよ)。前半は上杉さんのジャーナリストとしてのインサイダーストーリーを基軸に、後半はそうではない語り方について「流し」ていけるよう尽力したが、果たして上手くいったかどうか。
上杉さんは苦労人である。テレビなどのメジャーメディアから干されている。かといって東京電力が直接「あいつは排除しろ」と指示を出したのではなかろう。おそらくは現場の自主的な自己規制なのであろう。
シンポジウムの日は緊張して朝早く目が覚めたものだから(3時台!)、5時ごろテレビをつけて、圓歌の落語を聞いた。「吃音があって」というくだりに違和感を感じた。落語的表現であれば、ここは「どもり」というところだろうが、NHKに配慮して吃音にしたのではないかと僕は想像する。だって、全然話にかみ合わないんだもの。落語に「吃音」なんて言葉は似合わない。これも自主規制がなす悲喜劇である。股間を黒く染めれば何とかなると考えるヌード写真みたいなもので、それは逆に股間を過剰に意識させ、隠微さを増すのである。要は、いやらしいのである。
その自主的な自己規制がどこから来ているのか。それは思考停止から来ている。翌日、僕はなぜか(シンクロニシティの故か)偶然、森達也氏の「放送禁止歌」を読んでいた。放送禁止歌、放送禁止用語、そして部落差別に関する非常にリアルで胸を打つルポだ。メディアは何のルールもないのに、勝手に自主規制する。思考停止の故である。自らの表現の可能性の幅を広げなければならない立場であるのに、勝手に萎縮し、勝手に思考停止する。それは、メディアに批判されたくないと思考停止し、規制過剰になる霞が関と同じ構造である。恫喝、萎縮、思考停止の輪がここにみられる。内田さんのブログにあるように、メルトダウンを口にするだけで更迭されるようなこっけいな光景がそこにはある。
もう一つ考えているのは、利益相反である。電力会社から過剰なまでの講演料や「大使」料をもらっている人物は多い。もらっている額は常識の範囲を超えている。その時点で「おかしい」思うべきなのに、思わない。そのことは問題であるべきである。
まあ、ちょっとした講演でうん百万とかもらっても当然の労働の対価と感じる鈍感な人物であったとしても、その利益相反は公開されねばなるまい。お金を得るのが悪いのではない。そのことを公にしないのが問題なのだ。科学の世界では、データの信憑性に影を落とすのはバイアスである。バイアスは不可避であるが、それを隠ぺいするのは科学的には誠実ではない。政治家も科学者も「著名人」も、自分の立ち位置を誠実に公表することで初めてそのコメントの信憑性が担保される。
利益相反があるのが問題なのではない。それが隠ぺいされているのが問題なのだ。なかったかのように振る舞われるのが問題なのだ。隠ぺいされているという不全感が不信感の温床となる。
内田さんは、「加害者としての有責性」をもってこの問題を長い時間をかけて取っ組み合う重要性を説いた。鷲田さんは、そのためらいを(おそらく)「ぐずぐずすること」と表現した。言いよどむ感覚は「放送禁止歌」に随所にみられた。それは自らの加害者性を意識したジャーナリストだからこそできることである。ジャーナリストが自らの加害者性、有責性に自覚的に文章を書くことは希有である。いろいろ、つながった。
1番前で拝聴させていただきました。
とても、面白く、学び、考えさせられるシンポジウムでした。
そして、自分の無知さをあらためて自覚しました。
もともとマスメディアはほとんど見ませんし、
偏っていることもある程度は感じ、また聞いていましたが、
生のインサイダーストーリーは、リアルでした。
震災という今回の切り口から、皆さんの見解や事実などを聞く中で、
震災だけでなく、私個人の思考プロセスに、多くの影響を与えてくれたように思います。
つながった、とまではいきませんが、
なんだかつながる様に伸びていきそう、、、
と思わせて頂いたシンポジウムでした。
ありがとうございました。
あっ、お誕生日おめでとうございます。
投稿情報: naomikan | 2011/06/18 04:08