災害時には寛容さが大事であると内田樹さんはいう。その通りだと思う。災害時じゃなくても、もちろん大切である。
寛容さとは、自分とは異なる他者を否定しないという態度である。自分とは意見が違うね。でもそういう見解を許容するということである。例えば僕は同性愛者ではないが、同性愛そのものは否定しないし、優劣を争う気もない。石原都知事みたいに。
寛容さも程度問題で、なんでもかんでも許容すれば良いわけでは、もちろんない。そこで大切なのは、「どこまで許容できるか」である。集団生活を強いられている被災地の方々は、この「許容度」ののり代をどう広げることができるかが大切になるように思う。相手のことを慮り、ルールを守ることは大切だろうし、逆に少々のルール違反(ゴミの出し方間違えたとか)にあまりガミガミ言わないような「大人の度量」も大切だろう。こういうことはあまり極度にリジッドにならないほうが良い。「正しいか、正しくないか」だけを基準にしたリジッドな世界はさぞ暮らしづらかろうし、集団生活ではなおさらだ。
昨日、僕は母乳について調べて書いた。母乳が「どのくらい良いか」を調べたかったからである。そこにはーーー読んでいただければ分かるがーーー母乳について良いことしか書いていない。せいぜい、鉄が減るかも的なささいなことは書いたが、その程度。あとはみんな肯定的な情報ばかりである。世に母乳反対派とかいたとしたら(昔は多かったですよね)、「こんなバイアスのかかった記事はけしからん」と怒られていたかもしれない。しかし、なにしろテーマが「どのくらい良いか」なので、、、、
意外や意外、母乳推進する人から批判が来る。「そんなネガティブな情報を出されては困る」という。ネガティブな情報なんて出していない。母乳のよさだけを書いている。それもオーセンティックなDynamedとUpToDateで勉強して書いている。針小棒大に基礎実験を拡大解釈したり、トンデモ論(HPVワクチン不妊説みたいな)をぶちあげたりはしていないつもりだ。一個だけアンインテンショナルな訳抜けがあったがこれはこちらのヒューマンエラーで決して隠ぺいしようとしたわけではない。ご指摘を受けて訂正している(感謝)。
にもかかわらず、けしからんと批判されるのは不思議である。不本意でもある。そのくせ、内容のどこが間違っているという具体的な指摘 はない。これも不可解なことであるが、こちらが口にしなかったことばかりを批判されている。たとえば、ミルクの歴史について言及がないのはけ しからん、という批判があった。だって、それこの論考のテーマじゃないし。「魚について」というレポートを書いて、「なんで豚の話を付け加えなかったの」 と教授に減点されたら、困るでしょ。
それにしても、このなになにについて言及がないのはけしからん、という批判はよくアマゾンの書籍批評に見られるけど、なんでそんなに自分本位な要求をするのだろう。むしろ本の価値って、「私が読みたい言葉」よりも「私が読み落としていた言葉」「私が読みたくないと無意識に封じ込めていた言葉」「私が想像だにしたことがない意外な言葉」を読むことにあるのじゃないだろうか。
なるほど、アトピーや喘息の発症はミルクと差はないと書いている。しかし、これを教えてくれたのはDynamedさんであるから、僕の捏造ではない。しかも、他国でのスタディーだとちゃんと断っている。日本では適応できない可能性もにおわせている。もちろん、もしそうでないというデータがあるのなら、ちゃんと拝聴しますから、教えてほしい。それに、別に母乳でアトピーが増えるとか言うネガティブキャンベーンをはっているわけではない。他者と差がなかったというのは別に悪情報でも何でもない。他者との比較をよりどころにしないならば。
あるものを褒めるのに、なぜ他者をくさすことを前提にし、枕詞にするのだろう。日本酒がうまい、と言ったからといってそれはワインをケナスこととは同義ではない。どちらも楽しめばよいだけの話である。僕はミルクのほうがよいなんて一言も言っていない。母乳のほうが良いとちゃんと言っている。ただ、ミルクも「案外」悪くない。ミルクで育てざるを得ない親がいたとして、その人に「ああ、お前の子どもももう終わったな」なんて引導を渡すほどではない、、、そう申し上げているだけである。他者の存在が肯定されるのが、なぜこうも侮辱と捕らえられるのだろうか。
中国人や朝鮮人を軽蔑・非難しないでも日本人として誇るやり方はできるはずだ。男を批判しなくても女として立派に生きていけるはずだ(逆もまた真なり)。○○科の医者を見下げなくてもあなたの科は素晴らしい専門科である。他者をさげないと自らのレゾンデートルが得られない。これが差別意識である。そして不寛容である。自分が差別主義者であると主張する人は一人もいない。白人100人に訊いても「俺は黒人差別者だ」という人は0人である。意図的にウソをついているわけではない。自分でも差別者だとはかんがえていない。しかし、出会い系サイトで黒人を指名する白人はごくわずかだという。差別と不寛容は我々の社会に根強く、そして恐ろしく幅広く普遍的に存在している。そしてほとんどの場合、当人はそうと自覚していない。
それにしても、「知識ではなく、語り口が大事ですよ」と書いたら、うるせえ、お前は何も知識ないだろ、的な罵倒で返されたのは驚いた。なんでこんな「語るにおちる」シンプルなエラーを犯すのだろう。人が正しさという錦の御旗を握り、居丈高に語るようになると、こういうピットフォールがある。自分が正しいことを言っているなあ、と思ったらよくよく注意しなきゃいかんな、と強く反省したのだった。僕もこの手の失敗はたくさんやってきたので。
岩田先生
先生のプログで、あふれる情報の中から、自分の考えをまとめることができます。私は、先生のように勉強できていないので、実践者としての感性と経験のようなものが最終的には、自己の判断に影響します。たとえ偉い専門家の先生であったとしても、信頼できなければ人は信じない。
「常にどんな研究をして、その研究がどれだけ役に立っているか」もありますよね。先生のように、医師だけでなく、教育に携わり、論理的にわかりやすく話してくださるのは、とってもうれしい。
医師であり、研究者であり、教育者である先生は、大変でしょうが、これからもよろしくお願いします。
投稿情報: セラチア | 2011/04/03 13:42
先生のツイートと、それに反応した何人かのツイートは拝見しました。
先生の著書やブログはよく見させていただいていますので、先生の言わんとしていることは理解できるつもりです。
その上で申し上げますが、「裸の王様」にならないで下さい。
私はどちらの味方でもないつもりですが、先生が社会(特に研修医にとってはカリスマです!)に与える影響を考えれば、もう少し「書くべきこと」があったのではないかということなのだと思いますよ。
先生に向けられた期待の大きさの現れとも思います。
私はここにコメントを寄せたある先生と近いので、某MLでその先生が書かれた先生への嘆き節も目にしました。
それは「大人の対応」でしょう。
しかし、「卑怯な対応」とも見えます。
直接批判していない先生方のなかにも、今回のやり取り、過去の先生の著書での記述、さらには神戸大学の「リフレッシュルーム問題」に危機感を寄せている医師は多数いるということをお伝えしたいと思います。
一部には「岩田はJTから金をもらっているのではないか」という推測もあります。
もちろん直接の裏金という意味ではなく「喫煙科学研究財団」の助成金のことです。
繰り返します。
裸の王様にならないで下さい。
長年の先生のファンからの、心からのお願いです。
投稿情報: a | 2011/04/03 09:41
先生 こんにちは。
心中お察しいたします。
多くの先生(医師に限らず)と言われるような立場の方は 似たような経験をされているように思います。
目の前の患者さんに 「症状を悪化させよう」と悪意を持って薬を処方するような医者は、世の中にはいない(少なくとも 私はそう信じています)と思いますが、何か要因があって、症状が変わらなかったり、悪化した場合でも、良心を信じてもらえず、罵倒されることがあります。かなり凹みますし、傷つきます。それでも「ありがとう」といって
くれる人のために、立ち直って、また平常心で診療を続ける。 そんなことの繰り返しです。
すみません。ちょっと本筋から離れてしまいましたね。
これからも、「世のため人のため」という気持ちが伝わってくるような先生のブログを楽しみにしています。
投稿情報: 岡山のあこです。 | 2011/04/03 09:36
岩田先生、こんにちは。
私は先生のブログ大好きです。
母乳の話にしても、放射線の話にしても、大変興味深く拝見しました。
世の中のことってほとんどが白・黒じゃない、割り切れないグレーですよね。
医療もかなりグレーなもの。
あとは自分たちがそのグレーをどのように評価し、どのように考えるか。
一部の批判に負けず、ぜひぜひまた面白い話を聞かせてください。
よろしくお願いします。
投稿情報: EndoMame | 2011/04/03 09:20