注意・以下の文章は神戸大学医学部感染症内科岩田健太郎(教授)と大路剛(助教)の見解であり、神戸大学の見解ではありません。なお、クラビットを販売している第一三共からは平成21年度に神戸大学病院感染症内科に奨学寄付金を得ています。感染症内科は平成20年度から発足しましたが、20年度、22年度は寄付金を受けていません。岩田、大路ともに第一三共からその他の研究費の受託は受けておらず、株等も保有していません。今回のコメントは当科が自発的に行っているもので、第一三共からなんの教唆も受けていません。
被災地に、もし「一種類だけ」抗菌薬を持っていくのなら何か、という話をする。ただし、これは成人(あるいは大きな未成年)を対象にした話である。
もちろん、複数持っていけるのであればそれに越したことはない。また、もちろん現地にあるさまざまな抗菌薬を活用すべきである。例えばテトラサイクリン系の抗菌薬使用については以下のサイトを参照。
http://blog.livedoor.jp/disasterinfection/archives/2589165.html
一種類「だけ」持っていくのであれば、クラビット500mg錠(レボフロキサシン)がよいと考える。根拠は以下の通り。
・レスピラトリー・キノロンであり、バイオアベイラビリティーがよい。経口薬でありながら、点滴薬と同等の効果が期待できる。
・1日1回投与が可能である。
・呼吸器感染症に使用できる(市中肺炎の主要な病原体はほぼ全てカバーする)
・尿路感染症に使用できる(同じキノロンでもモキシフロキサシンは尿路感染症には使用できない)。また、腎盂腎炎の場合キノロンであれば通常の14日ではなく、7日で治療できる。膀胱炎なら3日間
・(多くの)市中獲得型MRSAを含む軟部組織感染症に使用できる。
・レボフロキサシンのジェネリックの使用も考慮したが、100mg製剤で管理が煩瑣になり、価格に大差がない(100mgのジェネリックは80-90円程度。500mg錠は500円程度)
なお類似薬に、ジェニナック(ガレノキサシン)、グレースビット(シタフロキサシン)がある。これらを持参してもよい。ただし、同じキノロンでもモキシフロキサシンは尿路感染に効果が低い。シプロフロキサシンやオフロキサシンなどは肺炎球菌などに効果が低いので要注意。
禁忌
キノロンに重度のアレルギーがある場合
妊婦(ただし、リスク・利益を勘案して許容される場合もあるかも)
注意
鉄剤やマグネシウム剤などと共に使用しないこと。キレートされて吸収がおちる。2時間以上空けるとよい。
めまいなどの中枢神経系の副作用に注意
とくに高齢者でまれにアキレス腱断裂など軟部組織の損傷が見られることがある
これもまれだが、QT延長がおきることがある。
併用薬に要注意。ワルファリン、NSAIDS、シクロスポリン、テオフィリンなど
なお、岩田・大路は「通常の医療であれば」呼吸器感染症、尿路感染症、軟部組織感染症にクラビット(およびその他のレスピラトリーキノロン)を使うことはきわめてまれで、通常は使いません。
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