大人でエスタブリッシュしている医師に指導医というノウハウについての講習会なのが指導医講習会である。いちおう、成人教育を念頭に行っているのであるが、ほとんどのそれは(少なくとも僕の見聞きしているものは)偽善と欺瞞に満ちている。
最初にワークショップ形式ですよ、参加型ですよ、正しい答えはありませんよ、と言っておきながら、実はお釈迦様の手の中の孫悟空みたいに作業をした「ふり」をさせる。さんざんひっかきまわしたうえで、「実は正解はこれですよ」とデフォルトの「あるべき姿」を(半)強要する。これを繰り返しながら洗脳作業を繰り返す(たいていは軟禁状態のままで)。16時間の軟禁・拷問はちょうど警察が自白を(半)強要するやり方によく似ている。自由はあるようで、まるでない。模造紙やらKJやらで手作業がやたら多いので、頭を使ったり対話をする時間は実は短い。16時間も使っているのに、無駄が多い。小部屋へ移動させる時間も無駄だし、意欲を萎えさせる。一体感も下がる。何十年も前から古くさいやり方を踏襲していて、それを誰もおかしいと思わない。タスクも思考停止状態に陥っているのだ。これで成人学習とは、なにかのジョークみたいなものだ。
そもそも「正しい」答えがそう簡単に出てこない煮え切らない医療と教育の世界で、あんな安易な「正解」を16時間で詰め込むというのはほとんど小学校の教育である。成人教育とは真逆の存在だ。このダブル・スタンダードに気づきながら、「まあ、しようがないよね」とダブル・スタンダードを受け入れる人もいれば、この二重基準の欺瞞に気づいてすらいないタスク・フォースもいる。
これを打開するためには、16時間という枠で簡単に「正解」(あるいはプロダクト)を出さないというのが正しい態度だ。簡単に結果や結論のでない難しい問題に簡単な結果がでる「ふり」をしない。
そんなわけで、今年も指導医講習会が終わった。カリキュラムプラニング、GIO/SBO、KJ(KY?)などがまったくない世界。模造紙すら一度も使われなかった世界である。去年からだいぶ評判はよくなったとはいえ、まだまだ改善の余地はある。まだタスクが自分の価値観を押し付けすぎだ。もっともっと自律をうながす講習会にしなければ、偽善と欺瞞はなくならない。来年はもっと工夫しよう。今回はKセンター長にもいろいろ提言いただいた。センター長は指導医講習会はタスクとして今回初めての参加。下手に慣れていないだけに、本質的な問題点によく気がつく。こういうのは、慣れてしまうと学生サークル化して、批判も改善もできなくなるのだ。
ダウンサイジングも大きなテーマだ。今の指導医講習会はタスクにも参加者にも肉体的、時間的負荷をかけすぎる。忙しい指導医が楽しく教育するには、うまく「手を抜く」ことが大切なのに、まったく反対のことをしている。16時間という枠もいいかげん厚労省は考え直して欲しい。僕らは僕らで、いかにこの16時間を「短く」感じさせるか、が課題になる。時間は生き物で、長くも短くも感じられるものだから。今回は部屋への移動時間をはしょったおかげでスピーディーな展開は可能になった。サージャント・ペパーズのような流れる展開を目指したのである。今回はタスクの負担はだいぶ減ったと思う(なにしろ2年前は、前泊してリハーサルしてましたから!)。もっともっとタスクの負担が減るような工夫をしたい。準備がタスクの自己満足になっているケースがまだまだ多すぎる。
終了後、内田樹さんたちの朝カル対談に参加。時間の使い方についてはまったく同じことをおっしゃっていた。内田さんはいかに準備に時間を割かずに講演するかを「一所懸命」考える。ショートカットのために努力を惜しまない(僕も全く同じ)。大切なのは上手なショートカットである。徹夜してパワポを準備しても、実際の話に躍動感や伝達力がなければ無駄である。まだまだ手段と目的がひっくり返っている。
もとラグビー日本代表宇野平尾剛さんが、日本のスポーツ選手は「追い込んで」「ばてさせる」ことが自己目的化していると指摘。本当は1試合走ってもばてない走り方、体の動かし方を習得させるべきなのに、練習の時「ばてない」とコーチに叱られる。「なんでばてるまで走らないのだ」と叱責される。だから、選手は無意識のうちにわざと不合理な筋肉の使い方をして「ばてるように」走る。そのため試合のパフォーマンスが悪くなる。僕ら医者もこれと全く同じことをしょっちゅうやっている。ばてるまでやる、が自己目的化している。
内田さんたちの言葉を聞いていると、僕らのやっていることはまだまだ幼稚園のままごと的だなあと大いに反省したのだった。
今日は音羽GIMフェスティバルでなぜか総合診療について語る。今度出す本の類化性能と別化性能について語ることになるだろう(どんな話になるのかは、この時点では僕にもまだ分かっていない)。来週は検疫所の方にお話、それと性教育だ。そんで週末結婚式でスピーチすれば、しゃべりまくる死のロードはいったんおしまい。
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