誤解のないように繰り返しておくが、僕は何も帝京大学病院が無謬だったとか問題がないと仲間褒めをしたり弁護したいわけではない。
コメントする材料が乏しいのでノーコメントを貫いているだけだ。
しかし、厚労省に報告しなかったのはけしからん、というのは筋の通らない議論である。
そもそも、厚労省は耐性アシネトバクターを重要視してこなかった。
数年前、僕は厚労省の多剤耐性菌を担当している官僚と話をしたことがある。どこの部署だったかは忘れたけど(僕は担当部署を暗記するという官僚的な才能が全くない)。そのとき、多剤耐性アシネトバクターの問題やコリスチン・ポリミキシンの導入についても具申したのだが「メジャーな学会が問題にしていない」「誰も特に困っていない」「あなただけがそう言っているんじゃないですか」と全く相手にされなかった。彼ももう今は別の部署にいるけどね。
病院にアシネトバクター届け出の「義務」はない。H21年の通知で「お願い」されただけなのだ。法的拘束力はない。
もし厚労省が本気でこの菌を問題にしていたのならば、感染症法改正をして届け出感染症にしておけばよかったのである。コリスチンを緊急承認して治療体制を整えればよかったのである。そう言う営為を全くやらないでおいて、コリスチンについては未承認薬の流れでようやく議論されるようになったばかりだ。ことが起きると「なぜ報告しない」と難じるのは全く持って筋違いな物言いだ。今まで自分たちは何をやっていたというのだ。
繰り返すが、厚労省にも保健所にも院内感染対策のエキスパティースはない。それは、食品衛生的な問題とはまるで違う。ラーメンにゴキブリが入っていましたよ、という問題とは違うのだ。
院内感染は日々起きている。これは医療の宿痾のようなもので、絶対に避けられない。
もしカテーテル関連の血流感染をゼロにしたければ、ソリューションは一つである。ショックの患者に輸液をせず、栄養不良の患者に栄養を提供するのを拒み、見殺しにすればよいのである。呼吸苦に苦しむ患者を挿管しなければ人工呼吸器関連肺炎はゼロにできる。
それができないから、感染症が起きるのだ。感染症は医療を行った上でどうしても生じるゼロにできないリスクなのである。ゼロにできないリスクをいかに最小限にとどめるかに我々は毎日心血を注いでいる。これは、食中毒を起こさないための食品衛生というより、犯罪者を減らし、犯罪者をみつけ、そして犯罪に対応するといった警察的な行為に近い。
犯罪者が出現した、犯罪が起きた、という理由で警察や検察が法的に糾弾されたり罰せられたりするだろうか?
したがって、院内感染の問題に警察が介入するなど、ありえないことなのである。今回の問題を検証しなくてよいとか、改善は不要である、と申し上げているのではない。どの院内感染が不可避で、どの院内感染が回避可能であったかなど、法曹界にはジャッジできないと申し上げているのである。大野事件を思い出すべきである。これはNone of your businessなのだ。
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