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審判が必要か、という問いには「必要だ」とお答えしたいと思います。その審判が法曹界であるべきか、という点にはノーだというのが僕の見解です。もちろん、意図的な犯罪行為は別ですが(代理ムンチハウゼンとか)。
もっと言うと、むしろ審判と言うより医療に必要なのは技術委員会だと思います。「今のプレーはこうしたほうがよいんじゃないか」と検証するような存在です。なぜなら、野球における露骨なルール違反は、犯罪か否かのアナロジーですが、医療における議論のほとんどは(すべてではないですが)「その医療行為は正しかったか」はむしろ「そこはパスじゃなくてドリブルの方がよかったんじゃないのか?」というタイプの議論だからです。正邪の問題ではなく、どこまで正だったか?という議論です。およそ医療における議論では、それは僕らがよくやるM&Mカンファがそうですが、アウト、セーフという結論にはたいていなりません。
実際に裁判のために弁護士さんから意見を求められることがありますが、ほとんどの場合、議論がかみ合いません。「結局、医師がAマイシンを使ってさえいれば、死んだりしなかったんですよね。そうコメントしていただけますか」的な要望も受けます。それは後出しじゃんけん的には事実ですが、ちょっとなあ、と思います。これも、アウト、セーフ、よよいのよい、という議論です。僕は他人の医療行為を見て、アウト、セーフという物言いは絶対にしたくない。
例外的なひどい事例もありますので、100%法曹界は入ってくるな、とは思っていません。特に民事はそうでしょう。しかし、警察が入っていって医療とか感染症の領域でなにがセーフでなにがアウトかを判定するだけの能力を持っているとは僕は考えていません。特に院内感染というハザードに業務上過失致死という概念を持ち出すのは極めて危険です。
医療というエキスパティースがない人が医療を語る場合(官僚、特に臨床経験の浅い医系技官に多い。ちなみに研修医レベルは修行中なのでエキスパティースということばを用いる資格は持ちません。ちょっと現場にいました、という医系技官は専門家だと僕は思いません)、教科書とかマニュアル、ガイドラインに「合致しているか」だけが判断の基準になります。ルールのチェックをし、紙に書いてあるとおりなら○、そうでなければ×とされます。実際、裁判のときの資料請求はこんな感じです。しかし、教科書には書いてないレベル、教科書的記載には合致しない患者に対してどこまで応用問題が解けるかが現場のプロたるゆえんなのです。僕の日々推奨する抗菌薬は通常の医師が解けなかった難問に対する回答なのでアクロバティックでマニアックで、時に一見奇異なプランになることがあります。弁護士さんだって警察官だって教本通りにやっている人は(そんなものがあれば、の話ですが)あまり質の高い方ではないのじゃないでしょうか。
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