以前から百日咳の血清診断について質問を受けることが多いので、ここにまとめておく。出典は
石川、田中・青年および成人百日咳の診断は難しい 綜合臨床 2009;58:2081-2084
で、このタイトルからして意味深である。「難しい」と困難をそのまま吐露する日本の論文は希有なので、そう言う意味でもこの論文は貴重だ。
・培養検査は乳幼児で分離できることが多い。30−40%。青年・成人では見つかりにくい。
・血清学検査は、日本では菌体に対する凝集素価を測定しており、これは乳幼児の診断の指標を援用している。成人に使えるかどうかは不明。
・東浜株は血清型1,2、山口株は1,3である。山口株が流行株で東浜株がワクチン株なので、山口株のみが上がっている、東浜株より上がっていれば診断、、、という説もあるが、実証はされていない。また、1981年からは死菌ワクチンではないacellular vaccineになており、凝集抗体価がワクチン接種後も上がらないことが多い。また、ワクチンの抗体保持効果も10年程度ということで、青年期に抗体価を維持している可能性は低い。
・要するに、今の若者であれば東浜、山口(のどちらか?は)を気にする必要はあまりないと言うことだ。
・ちなみに死菌ワクチンの予防効果は高く、acellularは低い(ただし副作用が少ない)。これが世界的な百日咳増加の原因となっている、という意見もある。
・もひとつちなみに。アメリカがacellularを入れたのは1990年以降なので、この判断はアメリカよりも日本が早かった。日本がワクチン政策で世界の先鞭をつける希有な例だ。
・したがって、抗体価(シングル)で、どこをカットオフ値にするかは、分からない。160よりは320、320よりは640だと「可能性高いか、、、な?」という感じだ。
・海外では抗PT抗体が用いられることが多いが、これを日本の血清検査と比較検証した研究はほとんどないという。
・報告では、抗PT抗体で、94EU/ML以上を陽性、49-93は判定保留とする。あるいは100以上なら陽性とする、という意見もある。いずれも確定的なものではない。血清検査はむしろ疫学的に使用すべきで、臨床診断には役に立ちにくい、と書いている文献すらある。
・2008年の病原微生物検出情報で、百日咳診断の目安(案)(岡田ら)が提言されている。ここでは凝集素で40倍かペアで4倍以上、PT-IgGで94-100、あるいはペアで2倍以上を陽性とする案が出ている。ただし、検査が陰性でも「臨床診断」するという選択肢は(確定診断ではないが)残している。
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