日本では新型インフルエンザに罹患した人が(罹患、の定義にもよるが)だいたい、2000万人くらいである。これを書いている時点で、死亡者が200人くらい。(いわゆる)致死率はしたがって、10万人にひとり、0.001%となる。それにしても厚労省のHPはこの1年で本当に見やすくなった。すごい進歩ですね(うちのHPが全然進化しないのとえらい違いだ、、、)。
アメリカでは罹患者が(だいたい)6000万人くらい。死者が12000くらい、である。致死率は0.02%、日本の20倍となる。
これが、なぜ起きたのかは、よく考えてみる必要がある。
少なくとも、致死率そのものは検疫や学校閉鎖で低くなることはないと思う。率ですからねえ。理屈は付けることができるけど、少なくとも証明は無理だろう。いずれにしても寄与するところは小さいに違いない。
では、タミフルか?タミフルが、死亡率減少の全てである、という理屈を僕は受け入れることに困難を感じる(証明は、今はできないけど)。感染症において一つの要素が要素の全て、はまれだからである。アメリカと日本では交絡因子が多すぎて、大きすぎて、そのような結論を導くのは困難だからである。不明確な要素が多すぎる。不明確なものは「分からない」と言うのが誠実な態度だ。分かったふりはしてはいけない。
仮にタミフルが以上の結果をもたらしたとすると、ARRは0.02-0.001=0.019、NNTは5000人以上となる。そういうものだろうか???
アメリカでは重症例でもタミフルを飲んでいないものもいた。死亡率の高いところにインターベンションをかければ、死亡率は低くなる。ここではないか?外来で元気にしている患者全てに、(感染症学会が言うように)タミフルを処方する。死なない人に薬を出して、果たして死亡率が下がるものだろうか?
ちなみに、ちょっと練習問題としてRで遊んでみました。
x <- matrix(c(19999800, 200, 59988000, 12000), nc=2)
> chisq.test(x)
Pearson's Chi-squared test with Yates' continuity correction
data: x
X-squared = 3550.115, df = 1, p-value < 2.2e-16
アメリカでの死亡率は、確かに日本のそれよりずっと高い。まあ、厳密には上限下限などいろいろな条件で入力するべきだが、たぶんボトムラインはかわらんだろう。
これは発症者のうちの死亡者のデータである。疾患の予後に関するデータである。ここが大事である。
かつて、アメリカと日本の健康指標の違いは医療の質の差というより生活環境や社会の仕組みの違いじゃないか、という意見を聞いたことがある。それは、一理ある。まあ、医療制度も社会の仕組みなので線引きは難しいが、いずれにしてもアメリカの医療は新型インフルエンザ診療において日本ほどのアウトカムを出していないことが、明々白々である。ここまでは、よいだろう。我々がアメリカ的価値観でもし医療を切るのであれば、大事なのはアウトカムだ。そういう観点から行くと、かつてどこかであったようにアメリカ医療の模倣が理想、ということはインフル診療という観点からは絶対にあり得ない。
そんなことは僕はメールマガジンで10年も前から言っていたのだが(それをまとめたのが「悪魔の味方」)、いまだに「岩田はアメリカシンパで、日本をアメリカのようにしようとしている」という陰謀説が後を絶たないので非常に迷惑している。そういうことを言う人に限って、僕の本を読んだこともなければ会ったこともない奴らだ。経歴だけ見て人を判断しようとするから、そうなる。履歴書でその人物が分かることはほとんど(絶対とは言わんが)ない。加えて、高齢者はしばしば頑迷で、一度信じ込むとどんなに口を酸っぱくして否定しても全然聞いちゃくれない。もともと人の話を聴くのが嫌いな人も多い。
ケナンの「アメリカ外交50年」や、ハルバースタムの「ベスト&ブライテスト」を読むと、アメリカが「思い込み」と「ヒステリー」で戦争をしかけてしまうことが多いのが分かる。ヒステリーと思い込みでスペインと戦争をし、ベトナムで戦争をして、(最近は)イラクを攻め込んだ。思い込みが強く、ヒステリーに陥りがちで、雰囲気でものを決めて、人の話を聴かない。日本とアメリカは、意外に似たもの同志なのですね、たぶん。
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