ピペラシリンを術前術後の予防投与に使うというプラクティスが横行しています。耳鼻科、泌尿器科、産婦人科、心臓血管外科、いろいろなところで見つかります。
だれが言い出したのかは、知りません。でも、これは間違いです。
原則的に(例外はありますが)術前予防投与はSSI、創部の感染を予防するために用います。皮膚の上に乗っかっているブドウ球菌やレンサ球菌がターゲットです。
ピペラシリンは、緑膿菌を殺すのが取り柄の抗菌薬です。目指すところが間違ってる。
さて、例えば耳鼻科の患者さん。術後の合併症で一番多く、問題なのが肺炎です。何しろ嚥下の防御能ががた落ちです。本当に肺炎を起こしやすい。食道疾患のオペ後も多いです。
院内の肺炎で問題となるのは緑膿菌です。そのときの治療薬のオプションはできるだけ残しておきたい。でも、ピペラシリンなんて予防で使ってしまうとそのオプションをみすみす逃してしまいます。しかも、ピペラシリン耐性緑膿菌は同時にピペラシリン・タゾバクタム(ゾシン)耐性菌になります。ゾシンも使えなくなってしまう。
日本には5種類もカルバペネムがありますが、ピペラシリンは同系統の抗菌薬を(日本には)持ちません。非常に特化された抗菌薬です。そのため、結構売れているみたいです。でも、同じ会社がピペラシリンを誤用させるのを阻止しないと、ゾシンは早晩、耐性菌のために使えなくなってしまいます。長期的視座、とはこういうことをいいます。
企業が短絡的な視座でもってよこしまなことをやると、長い目で見ると大損してしまう、というケースを僕らはたくさん見てきました。ライ○ドア、船場○兆、アメリカの企業でもずるっこやってあとで大損のケースは多かったですね。
ピペラシリンの術前術後予防投与を、メーカーは必死にdiscourageすべきです。こういうことをメーカーがやる事が大事なのです。そうすれば、自分たちの虎の子の薬も守る事ができます。全ては、自分のためなのです。あと、専門家でピペラシリンを術前術後の予防に推奨している人がもしいるとしたら(知らないけど)、その人は猛省して前言撤回しなければならない。
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