まわっている5年生にハリソン17版のインフルエンザのまとめをやってもらいました。一部でしたが、とてもよくできていました。
学生の時からハリソンなどを読む癖やコツをつかんでおくと、将来の情報収集能力や分析能力に天地の差が出てきます。神戸大の学生のおつむはよいので、あとは使い方を教えてあげればよいのですね。
インフルエンザの肺外合併症の報告は、
・ Reye 症候群
・筋炎、横紋筋融解症、ミオグロビン尿症
・心筋炎、心膜炎
・中枢神経症状
の 4 つが主に挙げられる。
・ Reye 症候群は B 型インフルエンザに多く、小児において肝、中枢神経に脂肪変性を起こし、肝障害を伴う脳症を引き起こすものでアスピリン投与が関係していることが分かっている。
・筋炎は罹患部の筋肉に軽微な圧でも激しい疼痛を訴えるようになる。血清 CK とアルドラーゼが上昇し、ミオグロビン尿症から腎不全にいたる場合もある。
・現在心筋炎の報告はまれであるが、背景に心疾患がある場合、増悪が認められることがある。
・中枢神経疾患との因果関係は明らかではないが、脳炎、脊髄炎 Guillain-Barre 症候群などが報告されている。
脳炎 、横断性脊髄炎、ギランバレー症候群などの中枢神経系の疾患もインフルエンザ発症中に報告されている。インフルエンザウイルスとこれらの中枢神経系との因果関係はまだ明らかではない。急性インフルエンザウイルス感染症に続いておこる、黄色ブドウ球菌やA群溶血連鎖球菌による毒素性ショック症候群も報告されている。
前述したような特別な臓器系を傷害する合併症に加え、インフルエンザの流行で高齢者やハイリスク患者がインフルエンザを発症し、基礎にある心血管、肺、腎疾患が徐々に悪化し、ときには不可逆性の変化を来し、死に至ことがある。これらの死亡がA型インフルエンザの流行に伴う超過死亡をもたらす。
鳥インフルエンザの合併症
鳥類の A / H5N1 ウイルスによるインフルエンザでは、高率での肺炎( 50% 以上)および下痢や CNS 障害のような肺外病変と関連している。心不全や、腎不全を含む多系統疾患が死をもたらす。
検査所見および診断
急性のインフルエンザの間、咽頭をぬぐった液、鼻咽頭洗浄液、痰からインフルエンザウイルスが分離される。
・最も一般的には診断:ウイルス核蛋白やノイラミニダーゼを検出する迅速診断テスト。その感度、特異度は 60~90% である。
・ウイルス核酸は臨床検体から逆転写ポリメラーゼ連鎖反応により検出される。
・インフルエンザウイルスの型は蛍光抗体法やHI法( 赤血球凝集抑制試験)により同定
・ヘマグルチニンのサブタイプ(H1、H2、H3)はサブタイプ特異的抗血清を用いたHI法により同定される。
・診断のための血清学的手法には急性期と発症後 10~14 日後に得られた血清中の抗体価の比較が必要であり、感染後の確定診断に有効である。
・HI法やCF法による抗体価の 4 倍以上の上昇または ELISA による有意な抗体価の上昇は、急性感染の診断となる。
・ CF 法は他の血清診断法にくらべ感度が低いが、型特異的抗原を検出できるので、サブタイプ特異試薬が利用できない場合に有効である。
他の検査法は一般にインフルエンザウイルス感染の特異的診断のためには役立たない。白血球数は病初期にはしばしば低値を示すが、後に正常ないし軽度上昇をしめすといったように様々である。激しいウイルス性あるいは細菌性感染において重篤な白血球減少症が報告されており、また白血球数が 15,000 /μ L 以上の増加症では二次性の細菌感染が疑われる。
■ 鑑別診断
インフルエンザが地域で流行している間には、典型的な熱性呼吸器疾患の症状を呈している患者は、かなり確実にインフルエンザであると診断できる。流行していない時には、他の呼吸器系のいろいろなウイルスや、肺炎マイコプラズマによる急性呼吸器感染症と、個々のインフルエンザの症例を鑑別するのは難しい。重症のレンサ球菌による咽頭炎や初期の細菌性肺炎は、急性のインフルエンザとよく似ているが、細菌性肺炎は一般的に自然によくなることはない。病原細菌が含まれる膿性痰はグラム染色で細菌が同定でき、細菌性肺炎の診断において非常に重要である。
■ 治療
■ 合併症がないインフルエンザの場合は、頭痛、筋肉痛、発熱のコントロールのために、アセトアミノフェンによる対症療法が考えられるが、サリチル酸は18歳以下の子供にはライ症候群との関与が考えられるため、投与は避けられるべきである。咳は自制可能な範囲であるので、咳を押さえる薬剤は普通投与しないが、咳が非常に問題となる場合は、コデインを含む薬物の投与を考える。
■ インフルエンザには特異的な抗ウイルス薬があり、その中でノイラミニダーゼ阻害薬である、ザナミビルとオセルタナビルは、インフルエンザ A 型と B 型両方の治療に有効であり、アマンタジンとリマンタジンはインフルエンザ A 型にのみ有効である。 2005 ~ 2006 年にかけて、アマンタジンに対する耐性が、 A 型 H3N2 の 90 %以上において、見られたので、アマンタジンの投与は再考慮する必要がある。
■ オセルタミビル( 75mg を 1 日 2 回 5 日間経口投与)やザナミビル( 10mg を 1 日 2 回 5 日間経口吸入)は発症後2日以内に投与開始すれば、インフルエンザの兆候や症状の持続期間を 1 ~ 1.5 日短縮する。ザナミビルは喘息患者において、気管支れん縮を誘発させる可能性があり、オセルタミビルは悪心・嘔吐が見られることがあるが、食物と一緒に服用することで、頻度を減らすことができる。オセルタミビルは子供の中枢神経系の副作用に関与する。
■ アマンタジンとリマンタジンは発症後 48 時間以内に投与開始すれば、インフルエンザによる全身および呼吸器症状を 50 %短縮する。アマンタジンの投与を受けた患者に神経過敏、不安、不眠、集中力低下といった軽度な中枢神経系の副作用が見られるが、服薬中止によりこれらの副作用は軽減することができる。リマンタジンはアマンタジンと比較して、効果が同程度で副作用の頻度は低い。成人では、通常 200mg/ 日を 3 ~ 7 日間投与する。これらの薬物は腎臓排泄性なので、高齢者や腎不全患者では一日の投与量は 100mg 以下に減量されなければならない。
■ アマンタジンやリマンタジンでの治療中には耐性ウイルスが高率に出現し、家族内感染する。耐性の出現はサナミビルやオセルタミビルではより頻度が低いようであるが、起こる可能性はある。リバビリンは in vitro では A 型および B 型インフルエンザウイルスの両方に対するヌクレオシドアナログである。エアロゾルとして投与されると報告により差はあるが、抗インフルエンザ作用があり、経口的に投与すると効果がないと報告されている。その A 型および B 型インフルエンザに対する治療の有効性は証明されていない。
■ 原発性インフルエンザ肺炎の治療は、酸素投与を維持し、集中治療室において適切に治療を行い、必要ならば強力な呼吸循環管理をする。急性呼吸促迫症候群に陥った場合は血液ガスや循環動態を頻繁に監視しつつ、補液を注意深く行う。
■ 抗生物質は二次細菌性肺炎のような急性のインフルエンザの細菌合併症の治療のために用いるべきである。抗生物質の選択は喀痰や気管支吸引液のような適切な気道分泌物のグラム染色や培養によって決めるべきである。もし、気道分泌物の検査によって細菌性肺炎の病因が明らかにできない場合はこのような状況で最も一般的な病原細菌 ( 肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、インフルエンザ桿菌 ) に対して有効な抗生物質を経験的に選択すべきである。
■ 予防
公衆衛生的な観点から見て、インフルエンザを予防する主要な方法は、前回インフルエンザが流行していた時期の A 型、 B 型インフルエンザウイルスから作られた不活化ワクチンの使用である。もしワクチンウイルスと流行株がよく類似していれば、インフルエンザに対して 50 〜 80 %の予防効果が期待できる。現在使用されている不活化ワクチンは精製度が高く、副作用も少ない。接種部位の軽度の発赤と圧痛が認められる人は 1/3 程で、接種後 8 〜 24 時間に微熱と軽度の全身症状が認められる人は 5 %もいない。ワクチンは鶏卵を用いて作られるため、卵にアレルギーのある人は脱感作をするか、もしくはワクチンの接種をすべきではない。 1976 年の豚インフルエンザワクチンは Guillain-Barré 症候群の発生頻度を高めたように思われたが、 1976 年以降に接種されたインフルエンザワクチンではそのようなことはなかった。 1992 〜 93 年と 1993 〜 94 年のインフルエンザシーズンだけは例外で、ワクチン接種者のうち 1,000,000 人に 1 例より少し多い程の頻度で Guillain-Barré 症候群の発生頻度が高まった。
米国では経鼻ワクチンも利用されていて、ま、これは日本では未承認なんやけど、痛くないから特に低年齢の小児でも受けやすく、高い感染防御効果があるとされている。抗原変異により抗原性がワクチン株から離れた流行株にたいしても防御効果が認められたという報告もあったそうな。接種対象は 5~49 歳までです。
予防投薬に関してですが・・・・セルタミビルもしくはザナミビルで予防投薬は A 型と B 型インフルエンザウイルスに対して 84~89% の効果があるとされてるそうな。一方で、アマンタジンやリマンタジンの予防投与は A 型インフルエンザウイルス感染によって起こる疾患に対して 70~100% の効果があるとされてたんやけど、現在は耐性株の広がりにより使用は推奨されていないよ。基本的に予防投薬が行われるケースはインフルエンザワクチンを受けていないハイリスクの患者とか、抗原変異により摂取したワクチンが流行株に対し比較的効果が低いという場合に最もよく行われるよ。
予防的投薬と不活化ワクチンとは同時に使用してもよいのですが(むしろ、両者の併用で効果が相加的であるというエビデンスさえあーるー)ところがどっこい、予防化学療法と経鼻ワクチンを同時に投与するとワクチンに対する免疫反応に影響する可能性あり。抗ウイルス薬はワクチン接種後の少なくとも 2 週間は投与すべきではないし、逆に抗ウイルス薬投与終了後少なくとも 48 時間以内は生ワクチン接種を開始すべきではない。
抗ウイルス薬の予防投薬はインフルエンザの施設内流行を抑えるためにも有効!インフルエンザの発生を認められたら即開始して、流行期間中毎日続けなければならない。
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