先日承認されたHPVワクチンのまとめです。古い論文ですが、どたばたしている間に読み損ねていました。
HPV vaccination. NEJM 2009;361:271-
▼ 臨床上の問題点
• 米国では女性で、14-19歳の25%、20-24歳の45%がHPV陽性。
• 米国全人口の80%の男女が生涯で一度はHPVに感染する。
• ある大学の研究だと、生まれて初めてセックスをした女学生で、パートナーは一人と言われている場合でも1年後には30%でHPV陽性になる(!)
• 大抵は無症状だが、尖圭コンジローマや子宮頚癌などのがんの原因となる。
• 世界では子宮頚癌は女性で2番目に多いがん。毎年49万人が発症し、27万人が死亡している。
▼ 病態生理など
• HPVは二重鎖DNAウイルス。皮膚や粘膜上皮に感染
• 2つのヌクレオカプシドタンパク(L1,L2)、少なくとも6つの初期タンパク(E1-E7)をコードするゲノムを持つ。
• 病変からは130以上のHPVジェノタイプが見つかっている。L1の類似性で分類している。
• 生殖器の粘膜を感染するHPVはジェノタイプで30-40。臨床像でハイリスクとローリスクに分類している。
• ローリスクタイプはイボの原因、ハイリスクは肛門生殖器のがんの原因。
• 6と11が90%以上のイボと再発性呼吸器パピロマトーシスの原因に。
• ハイリスク感染はほぼ100%の子宮頚癌、90%の肛門癌、50%の外陰部癌、膣癌、陰茎癌の原因に、そして12%の口腔咽頭がんの原因となる。
• ジェノタイプ16と18で80%の子宮頚癌の原因に、さらに31,33,35,45,52,58を足すと、95%の原因となる。覚え方が分からない、、、、
• 癌にならない場合、HPVのDNAは角質細胞内でホストのDNAとは別に動いている。しかし、悪性化するときはホストのDNAに組み込まれることが多い。図1
• 癌化には、E6とE7の発現が関与している。がん抑制遺伝子のp53とretinoblastoma protein, pRbを抑制する。
▼ 子宮頚癌の発生は組織学的な新興を伴う。
• cervical intraepithelial neoplasia, CINは子宮頚部の扁平上皮細胞の異常で、子宮頚癌の前駆段階である。
• CINはグレード1−3に分けられる。
• グレード1では軽度の異型性があり、下3分の1の子宮上皮を占有する。
• グレード2では中等度の異型性、下3分の2.
• グレード3では重度の異型性で子宮上皮全部を占有。
• CIN1の70−90%は自然に消退する。
• CIN2の癌化は57%
• 3だと70%である。
▼ ワクチンは2種類。
• HPVのL1タンパクを抗原としている。
• リコンビナントワクチン。
• たんぱくはウイルスのように集合して、形態学的にはHPVと同じ形になる。しかし、コアDNAを有していない。
• これで、防御抗体こそできるものの、感染したり癌化したりはしないのだ。
• メルクが作っているのが4価のワクチン、商品名はGardasil, あるいはSilgard
• ウイルス様抗原は6,11,16,18の4種類。
• グラクソが作っているのが、Cervarixで、16と18の二価ワクチン。メルクよりも2ジェノタイプ少ないが、これらはイボを起こすので、癌の予防としては等価か、、、、日本で承認されたのはこっち。
• どっちもチメロサールは入っていない。抗菌薬も入っていない。
• 液性免疫、細胞性免疫どちらも賦活する。
• L1に対する防御抗体が、毛細血管からしみだして陰部粘膜上皮でウイルスを中和すると考えられている。
▼ 臨床的なエビデンス
• 50000人以上の女性が臨床試験に参加している。
• セロコンバージョンは97.5%以上
• 5年後でも有効(らしい)
• 42ヶ月後の防御能(preventive efficacy)は94.4%。プロトコル通りなら。
• 侵襲性子宮頚癌の発生や死亡率について見積もったスタディーは現在進行中。大規模で長期にわたるスタディーが必要なので、難しい、、、ですよねえ。それに、前がん病変の治療をすれば死亡率はさらに下がる、、これをやらないのは倫理的に問題、、、というわけでスタディーは困難、、、
• というわけで、多くのスタディーはCIN2と3発生の予防、in situ腺癌の予防をefficacy pointとしている。まあ、そうでしょう。
• で、efficacyは90%。HPV16か18に感染して、それらによる病変が予防できる可能性、、、という意味。
• ただし、予防接種時にすでに感染してしまっていると効果がない。ワクチンのメカニズムから考えると、当然。
• 他のジェノタイプにも交叉反応があるかもしれないが、それはあまり大きな効果ではない。
▼ 臨床使用
• FDAは4価ワクチンを2006年6月に承認。適応は2008年9月に拡大。
• 9歳から26歳の女性に適応
• 2価ワクチンは米国ではまだ承認されていない。
• 理想的には初体験前にワクチンを打っておくことが望ましい。
• HPV感染のピークは初体験1年以内、、、
• 米国では13歳未満での性交渉は6.2%で起きている。初体験の中央値は16-17歳。
• 酵母菌に過敏反応がある場合は、禁忌
• 免疫抑制者で接種可能
• 妊婦には推奨されない。ただし、妊婦でだめ、というデータはいまのところない。よって、もし間違って妊娠女性に接種した場合は、その後の接種は分娩以降に延期した方がよい。
• 対象者の場合、感染率が低いためにワクチン接種前のウイルス感染の検査は薦められていない。
• 陰部疣贅やPAP異常のある女性でもワクチンは接種すべきである。他のタイプのHPVかもしれないし。
• 性交渉を結婚までしない(abstinence)やコンドーム使用も効果があるが、レイプや結婚後の感染、防御能を考えると完璧ではない。
• 二次予防としてはPAPやHPVのDNAテストがある。
• 接種は0.5mlを筋注で4価は0,2,6ヶ月に。2価は0,1,6ヶ月に。
• 投与間隔が狭まったらやり直し。投与間隔が広がった場合はそのままでよい(これは予防接種の一般原則)。
• 他のワクチンと同時接種可能
• 意識消失発作など(vasovagal)を考え、接種後15分間は経過観察を。非接種者は座っているか寝ていること???変な推奨。
▼ 子宮がん検診は、やはり必要。
• 30%の子宮頸癌はワクチンで防御できない。
• スクリーニングは初体験後3年、しかし21歳以前に行い、以降少なくとも3年おきに。
• ワクチンが普及したら、このスクリーニングプログラムも変更するかも。
• お値段は、米国で1回125ドル。トータルで375ドル。
• 医療保険はカバーしたり、しなかったり。資金援助をする州も(そうでない州も)
▼ 副反応
• 局所反応、頭痛、筋肉痛、倦怠感など
• 重度の副作用の頻度はプラセボと変わらず。
▼ 発売後のサーベイでは、VAERS, vaccine adverse event reporting systemに11916の報告が。
• 94%は非重篤、めまいや吐き気など。
• 6%は重篤。ギラン・バレー、静脈血栓、死亡など。ただし、因果関係はないものとFDAやCDCは判断している。
▼ 未確定な部分
• 免疫の持続時間が不明
▼ 男性への効果は不明
• 4価ワクチンの少年への効果は少女と同様。
• 肛門癌の予防は??
• コスト効果は?女性だけやれば男性にも効果がある?
• 真のアウトカムはまだでていない。
• 26歳以上の女性に対する効果は不明
• 免疫抑制者への効果や安全性は不明
• 子宮がん検診への影響が不明。これは大きい問題。
▼ WHOの推奨。原文のまま
• routine HPV vaccination should be included in national immunization programs, provided that:prevention of cervical cancer or other HPV-related diseases, or both, constitutes a public health priority; vaccine introduction is programmatically feasible; sustainable financing can be secured; and the cost-effectiveness of vaccination strategies in that country or region is considered. だそうです。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。