White blood cell count is often ordered inappropriately and has almost no value as a screening test.....
Wallach J. Interepretation of Diagnostic Tests. 8th ed.
白血球の話をします。白血球カウントは現場でよく行われていますが、その実その意味が理解されていない、という意味ではCRP同様です。そして、CRPとことなり、WBCは米国でもよく計測されますが(習慣的に)、その意味するところはあまり理解されていません。米国の医師は検査を十分吟味して行う、とときどき言われますが、私はその見解には疑問を持っています。確かに、相対的には日本の大学病院の医者よりはずっとマシだと思いますが。
あるドイツ人の医師が「カリウムだけ」オーダーしていた日のことを私は忘れられません。米国人の医者も結構適当、いい加減、「前からやってるから」「みんながやってるから」という理由で検査をオーダーしています。
さあ、その頻用される白血球ですが、どのように用いればいいのでしょうか。
白血球が高い!
・白血球やその分画で細菌感染か非細菌感染かを峻別する能力は低いとされます。極端に高い場合などは別ですが、予後決定因子としても使いにくい。ちなみに、PSI(pneumonia severity index)では白血球数については、肺炎の30日後死亡率との関連が得られませんでした。
・白血球の形態についてはどうでしょう。Dohle's body, toxic granulation, vacuolesなどがアネクドータルに紹介されています。私も研修医の時は、「toxic granulationがあって、、、、」なんて言っていましたが、使えるかどうか、、
好中球増加(8000以上)
・もちろん、よくあるのが炎症性疾患
・肺炎、髄膜炎、咽頭炎、膿瘍などの感染症
・リウマチ熱、血管炎などの非感染症、痛風発作
は有名です。有名すぎて、白血球が高くってもそれそのものがほとんど情報として使えないくらいです。
では、見逃されやすい白血球増多の原因としては、、、、
・尿毒症
・アシドーシス
・子癇(eclampsia)
・水銀中毒
・エピネフリンの使用
・クモ咬傷
・予防接種
・急性出血(消化管出血でよく白血球は上がります。コンテクストを考えましょう。コンテクストを考えないで、研修医が「感染症の合併を疑って抗生物質使いました」なんてプレゼンをするのを聞いたことがあります)。
・急性溶血性貧血
・骨髄増殖性疾患
・組織壊死
・心筋梗塞(これもコモン!)
・腫瘍壊死
・熱傷
さらにさらに
・運動(それだけ?)
・感情的なストレス(まじで?)
・生理
・分娩(何と!)
このように「炎症が無くても」白血球はよく上がります。
まだまだあります。
・ステロイド使用(これは有名。実際の白血球増加ではなく、周辺にある白血球がカウントされるようになっただけの「見かけ」の増加ですが。逆に、ステロイド使用時に毎日毎日どんどんどんどん白血球が増えている場合は要注意。「ステロイド使ってますから」なんて看過していると重大な感染症を見落としていたりしますよ)。プレドニゾン40mgを使うと好中球が1,700から7,500増えるのだそうです。しかし、4−6時間でさくっと増えた後は24時間以内に正常範囲内に戻るのだとか。むしろ、リンパ球や単球は減ると言います。
リンパ球増加(成人で4000以上、青少年で7200以上、小児だと9000以上)
・感染症
特に有名なのが、百日咳、伝染性単核球症、感染性肝炎、サイトメガロウイルス感染、ムンプス、風疹、水痘、トキソプラズマ症などです。
結核や急性感染症の回復期でも上昇します。
他にもリンパ球増加の原因として
・Addison病
・Crohn病
・潰瘍性大腸炎
・白血病
・血清病(ありましたね!)
・薬物過敏症
・血管炎
などがあります。
杏林大学の皿谷先生のブログで知ったのですが、
Lymphocyte count/ WBCのtotal countが、0.35以上ならば伝染性単核球症である確率は、感度90%,特異度100%なのだそうです。化膿性扁桃炎との鑑別に有用なのだとか。
Arch Otolaryngol Head Neck Surg. 2007 Jan;133(1):61-4
ただし、著者らもこのスタディーを「パイロットスタディー」だと位置づけていますし、レファレンスはモノスポットテスト(日本ではあまり使われないIMの検査。感度が低いのが難点ですし、特異度もちょっと、、、SLEやリンパ腫でも陽性になることがあります)なので、ちょっと慎重に見る必要があると思います。なお、IMをみたら、必ずHIV感染を考えましょう。
さて、IMといえばatypical lymphocytes. 非定型リンパ球です。これはどうでしょうか。実は、他の疾患でも上昇するので注意が必要です。怖い病気もありますよ。
・リンパ球性白血病
肝機能、LDHの時に話をしましたが、IMと血液疾患を区別するのは結構難しいときがあります。時が解決してくれることも多いですが。
他にも
・百日咳(これは有名)
・ブルセラ症
・(ときに)梅毒
・トキソプラズマ症
・血清病や薬物過敏
そして、
・正常人でも6%までの非定型リンパ球は見られる
ですって。
単球増加(分画で10%以上か、絶対値で500以上)。
単球なんてあまり注目しないことが多いかもしれませんが、これが高いと
・Hodgkin病などのリンパ腫
・白血病
・骨髄増殖性疾患
・Gaucher病などの脂質蓄積性疾患
などが隠れていることがあるそうです。そうやって診断したこと、ないですが。
他にも
・脾摘後
・マラリア
・カラ・アザール
・ロッキー山脈紅斑熱
・チフス
・亜急性心内膜炎
・結核
・ブルセラ症
・サルコイドーシス
・RA,SLEなど膠原病
などで上昇するそうですが、臨床的には役に立つかなあ。「単球上昇をきっかけに診断できたマラリア」なんて聞いたことないし、、、、まあ、敢えて言うなら、結核ではちょびっとヒントになることがありますが。
単球上昇はあまり診断には寄与しないと思いますが、「単球減少」をきたす疾患は教科書には一つしか書かれていませんでした。これは、役に立つかな?
・hairy cell leukemia
何と、、、、
形質細胞の増加
・感染症じゃないことがほとんどで、血液疾患などがほとんどです。肝硬変やRA、SLEでも上がることがあるそうです。感染症では結核、梅毒、マラリア、旋毛虫症などで上昇、と教科書にはありますが、診断に寄与するかというと、、、、、
好塩基球
・感染症的にはあまり役に立ちません。血液疾患でもあまり、、、これでCMLを診断できた、みたいな話は少ないようですが。
好酸球増加
・これは結構大事。いちおう、250以上で異常です。
・アレルギー、寄生虫がメインです。
・寄生虫では、単細胞の原虫では上がることはなく、多細胞の蠕虫で上昇することが多いです。アメーバ肝膿瘍とか、ジアルジア、マラリアでは好酸球は上がりません。
・逆に、住血吸虫症、糞線虫症などでは上昇していることが多いです。HTLV-1陽性で好酸球が上がっていたら、便の生スメアを見ろ!というのが沖縄中部病院の鉄則です。
・コクシジオマイコシスの初感染、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)でも上がることがあります。ABPAは厳密には感染症というよりアレルギー性疾患ですからむべなるかな。決して「肺アスペルギルス症」というファジーな病名をつけてはいけません。
・猩紅熱、(マイコプラズマ感染などで起きる)多形滲出性紅斑、クラミジア感染、ネコひっかき病、ブルセラ症など非寄生虫感染などでも上昇するとか。
・periarteritis nodosa, RA, SLEなど結合組織病でも上昇しますが、一番有名なのは、これも喘息チックなChurg-Strauss 症候群。喘息症状で好酸球が高くて、ニューロパチーなんかあるとこれを考えます。
・白血病、リンパ腫でも上昇します。
・脾摘後にも上がるんですって。
・Wiskott-Aldrich, GVHD, cyclic neutropenia, IgA deficiencyなどでも起きるそうです。
・好酸球性腸炎、炎症性腸疾患、などの消化器の炎症
・有名なのはAddison病!
・他にも、多種多様な固形がん、サルコイドーシス、リン中毒、クモ咬傷などで上昇するとか、、、、
・私の場合、入院中に発症したかどうかで分けます。入院中ならほとんどお薬です。たまに副腎不全。外からくる患者であれば随伴症状で絞っていきます。ABPA、Churg、Addison、寄生虫感染などは常に注意です。HTLV-1と糞線虫は、住んでいる場所によっては重要です。
類白血病反応
leukemoid reactionと英語ではいいます。日本語だと硬い表現ですが、要は「白血病もどき」です。
重症感染症により白血球数が異常に増加し、末梢血に芽球が見られることもあります。通常は白血球数は5万以上に上がります。
感染症と診断されていてこのような現象があれば、「やや、白血病の発症か」なんて思わなくても通常は大丈夫です。オッカムのカミソリを使い、急性疾患がいくつも偶然重なることはまれであり、急性感染症で入院した人が、たまたま偶然白血病も発症するなんて確率的には考えづらいからです。もっとも、最初の「感染症」の診断が誤診で、実は最初から白血病だった、というシナリオには常に注意しなくてはいけません。
類白血病反応は原疾患の治療だけで良くなります。白血球がいくら高くてもそれで死亡率が上がるわけではないので慌てる必要はありません。また、これはエビデンスが強固ではないですが、類白血病反応が有意に脳梗塞や心筋梗塞など血管閉塞性疾患を増やすことはないと考えられています。予防的なアスピリンやヘパリンも不要だと考えます。
あと、喫煙も白血球を増やします。これも健診なんかでよく紹介される理由です。あれやこれやの抗生物質を「白血球を下げるために」投与されたあげくに紹介されたことがありますが、禁煙で下がりました。抗生物質投与の前に、必ず患者は診察しましょう。
好中球が低いとき
・まず、薬を考えます。サルファ剤、サイアザイド利尿薬、プロピルチオウラシルなどなど。
・あとは、化学療法ですか、、、
・血液疾患があるときは、「白血球正常あるいは増加」でも実際には悪性細胞だけで、好中球減少だったりします。要注意。
・cyclic neutropeniaという時々熱が出て好中球が下がっている遺伝子疾患があります。このような周期性の熱にはしばしばお目にかかりますが、あいにくcyclic neutropeniaはまだ見たことがありません。
リンパ球が低いとき
・化学療法で下がります。ステロイドでも(白血球は増えるのに)下がるのは、意外に知られていないので要注意。Cushing病もね。
・Hodgkin病などの血液疾患、Wiskott-Aldrich, ataxia telangiectasiaでも下がります。combined immunodeficiencyは成人の先天性免疫不全ではもっともコモンですが、これでもリンパ球が下がるそうです。
・SLE,HIV、アプラ(再生不良性貧血)、粟粒結核、腎不全、重症筋無力症は忘れないように、、、、
参考
Jacques Wallach. Interpretation of diagnostic tests. 8th ed. Lippincott Williams and Wilkins.
田中和豊 問題解決型救急初期検査 医学書院
Talan DA et al. Severe sepsis and septic shock in the emergency department. Infect Dis Clin N Am 22(2008)1-31
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