ジャーナリズム崩壊 上杉隆 幻冬舎新書
今年読んだ本で今のところ、一番エキサイティングだった本。とても面白く、説得力があります。
「ニューヨークタイムズを読むと謎が解け、朝日新聞を読むと謎が深まる」
と以前から思っていました。ニューヨークタイムズをワシントンポスト、朝日新聞を日経にしても同じことです。これはリベラル・保守、右左に関係なく、日本の新聞記事の質の低さが昔から気になっていたのです。
日米の医療を比較するのはいろいろな理由で困難です。そもそも、日本の医療とか米国の医療って何?というのが分かりづらいですし、サンプルを取ろうと思っても一人で何十もの医療機関を体験できるわけもありません。また、日本から渡米、あるいは米国から帰国すると時間のずれが生じてしまいます。1990年代の日本医療と21世紀のアメリカ医療を比較して、どうなるというのでしょう。
それに比べて、新聞比較は簡単です。同時期のNYタイムズと朝日新聞の医学記事を読み比べてみれば、そのレベルの違いは歴然です。前者は謎がとけ、後者は謎が深まります。
○○肺炎治療の切り札!
という見出しなのに、なぜか一例報告だったりすることは珍しくないのです。学術誌の論文を紹介することは希有で、○○大学何とか教室のリークがほとんどのソースです。論文を読まない、読めない記者も多いようです。これでは、なんで?どうして?謎は深まるわけです。
「天声人語」(あるいはそれに相当するコラム)に至っては読むのは時間の無駄です。欧米の新聞ではあれに相当するコラムはないことがほとんどだと思います。どれくらい時間の無駄かというと、これをやれば一目瞭然です。天声人語型の文章は問題認識、問題分析、問題解決という日本人が苦手なプロセスから背を向けた、悪文の典型です。こんな文章が受験に出るというのは、日本の高校生、頭悪くなれ、というメッセージではないかとすら思います。
天声人語風メーカー
http://taisa.tm.land.to/tensei.html
まあ、もっとも、上杉氏が絶賛するNYタイムズですが、アメリカでの評価は様々です。保守派は忌み嫌うのはいいとして、一番問題だったのは国際記事だと思いました。やはり、アメリカ的な上から目線で、自分たちの価値観でしか外国の事象を評価できないのが最大の問題です。(アメリカ人にとって)奇妙な外国の流行や風習をおもしろおかしくとりあげるので、友人のインド人医師は「イエロージャーナリズムだ」とばっさり切り捨てていました。上杉氏が賞賛していたフレンチ氏も、日本の記事は結構へんてこでした。世界のジャイアン、アメリカ合衆国がレヴィ・ストロールのような構造主義的アプローチをとれるとはとても思いませんから、これはNYタイムズだけの問題と言うより米国全体の問題という気もしますが。
メディアリテラシーの向上がないと医療の質も向上しません。もっとも、インターネットの発達で、すでに日本人も新聞やテレビを見放しているような印象もあります。このまま既存のメディアはベルリンの壁のように自然崩壊するのかもしれません。ただ、国際ニュースのリテラシーの問題が言葉の関係でのこり続け、インターネットであってもこれはにわかには解決できないのですが。
医療崩壊、ジャーナリズム崩壊と崩壊話が続きます。私は自著の中で厚労省や文科省も崩壊寸前だし、そうカミングアウトする方が私たちにとっても霞ヶ関にとっても健全である、主張しています。肩の力を抜き、自分たちのカラをやぶってカミングアウトする時代なのかもしれません。これもインターネットの恩恵か、あるいは全然関係ないのか。
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