麻疹抗体検査の解釈
諸外国では免疫確認のためにしか使わない麻疹の抗体検査ですが、日本では未だにアウトブレイク後の対応や臨床診断に用いられています。未だに麻疹が流行っているなんて、本当に日本は恥ずかしい。もっとも、関西の某大学も最近流行ったので面目ないとしか言いようがありません。
麻疹という疾患は臨床診断でいけることも多く、特にKoplik斑を認めればかなり高い特異度で診断可能でしょう。血液検査では、一般に血清学的な検査が用いられます。
麻疹の診断
麻疹の診断にはEIA (enzyme immunoassay)のIgMを測定します。
ちょっと脱線。私は検査の素人なので、EIAとELISAの違いがうまく理解できていませんでした。そこで調べてみると、以下のような説明があります。
http://www.osaka-amt.or.jp/mtqa/qa036.html より
「免疫の本を読んでいてよく分からなかったのですが、EIAとELISAの違いは何なのでしょうか? 出来れば具体的に教えていただけませんでしょうか。
EIAとは抗原抗体反応を利用して物質を測定する方法のうち、「酵素を標識物とする方法」の「総称」です。 EIAにはご存知のように均一系(Homogeneous)と不均一系(Heterogeneous)があり、ご質問のELISAは不均一系のものです。
不均一系は競合法と非競合法に大別されます。この系は高感度ですが、検出したい物質の分子量はある程度の大きさが必要になります。
競合法は、一定量の抗体をビーズやプレートなどに固相化し(固相化しない方法もある)、被検試料(目的物を検出したい試料)ならびにあらかじめ用意してある一定量の酵素標識抗原を同時に反応させ、結合できた酵素標識物の量から被検試料中の抗原(目的物)の量を知る方法です。
一方、非競合法は競合法と同様に抗体(あるいは抗原)を固相化して、そこに被検試料(目的物)を反応させた後、酵素標識抗体を反応させることにより目的物の量を知る方法です。
ELISAは、このように固相化した方法でのEIAのことを指します。」以上、引用終わり
なんちゅう分かりづらい説明や。何度か読み直さないと何のことだかわからない。
Manual of Clinical Microbiology 8th ed. を開くと、英語にもかかわらず、ずっと分かりやすい説明が載っていました。
「Because there are number of configurations of these EIA systems, more specific names may be used, such as the enzyme-linked immunosorbent assay (ELISA), in which an antibody or antigen reagent is adsorbed (sorbent) onto a solid-phase support」
両者の説明のわかりやすさからいろいろな教訓を得ることができますが、今回はそこは割愛、、
脱線終わり
麻疹IgMは皮疹がでた時点から陽性になり、4週間はその後陽性が続くといいます。もちろん、完璧な検査などこの世には存在しませんから、問題点はあります。発症すぐに、特に発疹前に採取した検体だと偽陰性がでることがあります。また、ある検査系では発疹初日に採取した検体でも77%しか検査が陽性になりませんでした。
偽陽性も問題です。IgMではリウマチ因子の存在で偽陽性になることが知られています。リウマチ因子はIgGに対するIgMですよね。
EIAの感度、特異度はそれぞれ90%、99%くらいだそうです。メーカーによっても若干差があるでしょうが。陽性適中率、陰性適中率は麻疹のはやり具合や検査前確率によって動くそうで、50%以下になったり、99%になったりするそうです。計算上は、感度特異度は疾患の頻度に依存しないので動かないはず(ですが、けっこう差が出るような気がします。理由はよく理解できませんが)。
また、パルボウイルスB19や風疹ウイルスと交叉反応を起こして偽陽性になると言う記載もあります。実は、私も30代女性の微熱、関節痛、うっすら皮疹の患者さんで「麻疹IgM陽性でした」というふれこみで紹介されたことがあります。おかしいな、全然麻疹ちゃうやん、ということでパルボIgMを調べたらばっちり陽性でした(お子さんもリンゴ病でした)。妥当な問診と診察、臨床判断を抜きにした検査がいかに人を誤らせるか、という典型だと思います。パルボの抗体は妊婦さん以外には保健適応がない、という理解不可能な規則が感染症王国日本にはありますが、個人的な経験では結構保健は通ってしまうことも多いです。この辺のしくみもよく理解できません。謎の多い感染症王国日本。
よく用いられているhemagglutination inhibition (HI)法は感度、特異度ともに問題があるため、EIAを用いる方がベターです。これは、後述するIgGについても同様。ちとお値段は高いですが。中和抗体法(PRN assay)は感度も特異度も高いですが手間も時間もかかるので臨床現場ではあまり用いにくいようです。
麻疹のIgGは過去の感染や予防接種の効果を判定するのに用いられます。そのカットオフ値(基準値にあらず)はメーカーによって異なります。しかし、どのくらいの抗体価をもってprotective、麻疹からは安全、とするかについてはあまり確たるデータがありません。実験で検証するのも難しいですしね。専門家の間でも諸説あるようです。カットオフ値を変化させるだけで、ワクチン接種回数が大幅に変わります。本来は1回しか打っていない方は全員ワクチンを打った方がいいのかもしれません。この辺はお金の問題もありますから、議論の余地のあるところです。
厚労省は高校生や中学生に追加の麻疹ワクチンを打つようプランを立てましたが、例のごとくの広報下手で接種率は低いままです。またまた脱線になりますが、例の採血ホルダーや微量採血器具問題の遠因の一つは厚労省の広報下手のためです。正答率があまりに低い試験問題は不適切問題であり、医療機関の多くが認識していなかった通知は不適切通知なのです。お役人や公務員、独立行政法人の人たちは「通知しといたはず」「HPに載せておきました」という無責任な発言が多くて困ります。博○堂かなにかで研修を受ければいいのに。久しぶりに感染症情報センターのHPを見ましたが、ずいぶん様変わりして見やすくなっていました。しかし医療従事者でない一般の方で、どれだけの人がこのサイトを自主的に見てくれるでしょうか。このサイトは興味関心のある人が検索するには便利ですが、「興味も関心もない」人たちにメッセージを伝えるには、バナーを貼る、yahooやgoogleのHPにリンクをつける、公共広告機構などを使ってテレビCMなどの工夫が必要だと思います。
2006年にようやく小児の定期予防接種でMRワクチンは二回打ちになりました。日本が麻疹フリー宣言を出すのは一体いつのことでしょう。大学や病院は「国はあまりあてにならない」という事実を受け入れて、自分たちの力で自分たちの組織を守る努力を、しばらく続けなければいけないのです。
写真は、街角で見つけた渋いタイトルの、本屋
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