手元にあるのは、日本呼吸器学会が発表した「成人院内肺炎診療ガイドライン」のポケット版です。呼吸器学会は数年前、市中肺炎のガイドラインを出版し、これはある意味IDSA・ATSのガイドラインよりも良くできていたと感じ入ったものです。今回もユーザーの立場に立って分かりやすい構成と明解な指針がまとめられている、ストラクチャーとしてはよいガイドラインだと思いました。
市中肺炎ガイドラインのキモは重症度分類(A-DROP)でした。今回のガイドラインでもキモとなっているのは重症度だと私は思います。
そこででてきたのがCRP。肺炎重症度を規定するのにCRPが重要で、それによって死亡率が異なる、というものでした。従来、CRPに関して死亡率と相関する(特に初診のCRP)というデータは存在しなかったため、これは驚きの結果です。例えば、CRPが初診時5mg/dl以下だと死亡率は14.6%ですが、25以上だと36.3%です。
この場合、交絡因子の存在は気にする必要はありません。我々はCRPの性で人が死ぬとは最初から思っていませんから。臨床現場でCRPの測定が役に立つかどうか、が重要で、例え交絡があったとしても見て役に立つのであれば、患者評価に役に立つのであればそれで充分なのです。
カール・ポパーのいうように、科学的言説とはたった一つの反証があれば充分なのであり、これは非常にインパクトの大きなデータといえましょう。私も今日からティーチングの仕方を根本的に変えなくてはいけないかもしれません。
もっとも、いままで存在しなかったデータがいきなりガイドラインに出てくるのですから解釈には慎重な対応が必要です。残念ながらポケット版には引用文献リストなどはなく、これは正式版を待たねばなりません。正式版の出版は今月中で価格は3000円とのことでした。ポケット版を配るお金があるのだから、できれば正式版もウェブ上で無料で公開してほしかったです(英訳も含めて)。私は、そろそろ日本発のガイドラインが世界で評価され、吟味される時代が来るべきだと思います。オランダの感染症ガイドラインは英訳されて一般公開されており、転載も自由というユーザーフレンドリーさです。呼吸器学会、もう一歩だ!
正式版を手に入れたら、しっかり読み込んでもう一度この問題を一所懸命考えてみたいと思います。
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