最近、みたケースはこんな感じでした(すこしデフォルメしています)。
腹部のオペ後の患者さん。閉腹出来ず、ICUに長くいます。熱があり、白血球が高く、CRPが高い。ずっと高い。あれやこれやの抗菌薬を次々に試しますが、なかなかよくならない。
相談
されて診察してみると、全身状態はとてもいい。呼吸状態はよく、血圧は安定、脈拍も安定、鎮静を落とせば意識状態もいい。
わたしは、「抗菌薬はやめてみましょう。熱が出たら、培養を取り直してみましょう。血液培養と尿培養を、、、、」
熱が出たときは血液培養、というのは近年ようやく、少しずつ浸透してきましたが、意外に忘れられているのは尿培養です。入院中でカテが入っていて、熱のフォーカスがはっきりしないときは、かならず尿検査と尿培養が必要です。培養も何でもかんでも取ればいい、というものではありませんが、少なくともICUではそうです。
ポイント
・入院患者の発熱で、尿検査・尿培養を忘れると痛い目に遭うことがある。
抗菌薬をやめてみます。当然、心配だから毎日診察します。大丈夫、バイタルに変化なし。そうこうしているうちに、数日たってから熱が下がってきます。白血球も下がってきます。CRPも低下傾向。陰性化はしません。でも、気にする必要はない。トレンドが大事なのです。
こういうケースはとても多いです。もしかしたら薬剤熱だったのかもしれませんし、オペ後の反応熱が遷延していたのかもしれません。意外に知られていないことですが、薬剤熱でもCRPは上昇します。
ポイント
・バイタルが安定している患者の熱の場合、抗菌薬中止が福音をもたらすことがある。
・薬剤熱でも、CRPはあがる
・CRPは陰性化する必要はない。あくまでトレンドが大事。
もちろん、熱の出ている患者の抗菌薬を切るのは不安なことです。どの担当医も心配になります。心配になるのが自然ですから、それは健全な反応です。むしろ平気の平左でいる方が、やばいかもしれません。
でも、心配しながらも「中腰」でじっくりゆっくり患者を観察していきます。幸いICUはスタッフも多いし急変にも対応しやすい。血圧が下がる、呼吸状態の悪化、患者の急変があれば、即座に各種検査をして、広域抗菌役をどんっと最大量で使います。感染管理で典型的な失敗は、急変している患者に広域抗菌薬を出し損ない、「経過観察」してしまうことです。広域抗菌薬を「使わない」ことが「適正使用」なのではない。この一点は、大変重要な教訓です。
でも、この患者さんはバイタル安定してるから、じっと我慢でみていくのです。この我慢、この胆力こそが臨床家の臨床家たる「勇気」です。
CRPは、重症感染症におけるドリンクホルダーです。もっと大事なのは、血圧、呼吸数、意識状態などです。これらがハンドル、エンジン、ブレーキに当たるのです。ハンドルやブレーキを無視してドリンクホルダーばかりいじっていると、事故ります。ハンドル、ブレーキ、エンジンがしっかりしていれば、CRPが高くてもあわてて抗菌薬を使わなくてもよい可能性が高いです。
逆の症例。膵臓手術の既往のあり、脾摘を受けている男性ですが、「非常に」残念なことに、肺炎球菌ワクチンを接種されていませんでした。ショック、意識状態の変化、出血傾向を伴うDICで来院です。重症敗血症・敗血症性ショックです。適切な広域抗菌薬がすぐに使われたにもかかわらず、患者は24時間以内に死亡してしまいました。CRPは1台でした。ドリンクホルダーは緊急時にはみていてもしようがありません。
外来の20代の男性。「熱があり、CRPがあがっていたので、クラリス、次いでフロモックスを使っているのに治らない」という理由で紹介されてきました。のどが腫れていて、白苔が就いていて、後頚部リンパ節が腫れており、肝機能異常があり、腹部超音波で肝脾腫がありました。そう、伝染性単核球症でした。患者の診察を怠り、CRPばかりみているとこういうことになります。
外来患者でも入院患者でも、CRPはドリンクホルダー。CRPを測るのはかまいませんが、もっと大切なものを見逃さないように。
ポイント
・CRPは測っていいが、ドリンクホルダー。
・病歴、診察所見(特にバイタル、意識状態)こそが感染症診療におけるハンドル、ブレーキ、エンジンに当たる。ハンドル・ブレーキをほったらかしてドリンクホルダーをいじりまくらないように!
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