胃癌の術前に嫌気性菌をカバーした抗菌薬を予防的に投与すべきか?
【序論】
XXXX胃癌の術前、特に胃空腸バイパス術前にSSI予防を行う際は、XXX嫌気性菌をカバーした抗菌薬を選択すべきか疑問に思ったので以下に考察する。
【本論】
術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン1)によると胃空腸バイパス術術前の予防抗菌薬はセファゾリンが推奨されているが、これは嫌気性菌をカバーしていない。
2017年にYoshio Takasueらによって、日本国内で2014年1月から2015年2月の間に手術部位感染患者から同定された病原体の抗菌薬感受性に関する論文が報告された。この論文では670人の手術部位感染患者から得られた883の菌株が調査されている。本症例の条件に近い胃と食道の手術からは101の菌株のうち8例(7.9%)で嫌気性菌(Bacteroides fragilis)が同定された。2)
JHAIS(日本環境感染学会)における手術部位感染サーベイランスの結果では2018年1月から12月の間に行われた胃癌の手術3824件のうち手術部位感染は293件発生していた(胃手術81件、幽門側胃切除125件、胃全摘87件)。それぞれの胃癌手術で分離された上位10菌株のうち嫌気性菌が同定されたのは幽門側胃切除のみであり、その数は69菌株のうち3例(4.3%)(Bacteroides fragilis)であった。3)
【結論】
上記の論文では胃癌に対する詳細な術式が記載されていなかったこと、JHAISのサーベイランスでは胃空腸バイパス術における手術部位感染のデータが得られなかったことから胃空腸バイパス術において嫌気性菌をカバーした抗菌薬を投与すべきか分からなかった。
しかし、件数は多くないものの胃癌術後に嫌気性菌が同定された症例の報告があることから、一部の患者に対しては嫌気性菌もカバーする必要があるのではないかと考える。
残された課題としては、例えば術式や患者特性など、どのような条件を満たした患者に対して嫌気性菌をカバーする必要があるかという点に関するデータを見つけることができなかったので、今後学んでいきたい。
参考文献
1. 術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン- 公益社団法人日本化学療法学会Available from: http://www.chemotherapy.or.jp/guideline/jyutsugo_shiyou.html
2. Takesue Y, Kusachi S, Mikamo H, Sato J, Watanabe A, Kiyota H, et al. Antimicrobial susceptibility of pathogens isolated from surgical site infections in Japan: Comparison of data from nationwide surveillance studies conducted in 2010 and 2014–2015. J Infect Chemother. 2017 Jun 1;23(6):339–48.
3. 日本環境感染学会 - 手術部位感染サーベイランス部門. 日本環境感染学会. Available from: http://www.kankyokansen.org/modules/iinkai/index.php?content_id=5
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