YSQ『感染性心内膜炎で起こる脳梗塞の治療薬は中枢移行性を考慮しなくてはいけないか?』
<序論>
感染性心内膜炎では心臓に付着した疣贅が局所へ移行し塞栓を起こすことがある。ここでは感染性心内膜炎で引き起こされる脳梗塞の治療薬について考える。
<本論>
感染性心内膜炎では疣贅が敗血症性塞栓を引き起こすが、脳膿瘍を引き起こしたり梗塞内部に出血を引き起こしたりするため、一般的な脳梗塞で行われるような抗凝固療法や血栓溶解療法を通常は行なわれず、脳梗塞の予防として効果的な抗菌薬を投与することが求められる。1さらなる梗塞の予防として感染性心内膜炎の手術を行うこともある。2
感染性心内膜炎では敗血症性塞栓物質が髄膜血管を塞栓しその後細菌などがCSFに浸潤することで脳炎や髄膜炎をきたすことがある。3
ここでは感染性心内膜炎に伴う敗血症性塞栓物質が脳炎や髄膜炎を来した場合に使用する薬剤はどの様なものであるかについて論じたい。
結論から述べると、脳炎や髄膜炎などの中枢神経系における感染では薬の中枢移行性を考えるべきである。4細菌性髄膜炎では髄膜腔に細菌が浸潤しており、髄液移行性のない抗菌薬では殺菌できないからである。
血液脳関門の透過性は、炎症による血液脳関門の破綻の程度、薬剤の分子量、脂溶性、蛋白結合能、電荷などが関連する。そのうち副作用が少ないものも考慮する。
よって感染性心内膜炎において髄膜炎が疑われる場合の治療としてはバンコマイシンとセフトリアキソンを髄膜炎の重症度に応じた投与量で感受性の結果がわかるまで投与する。1
また細菌性髄膜炎では浸潤した細菌に対して免疫応答が活発になり組織を障害するので、抗菌薬療法により髄液が無菌化された後でも神経組織を損傷しうる。
このために抗菌薬の補助療法として抗菌薬投与前にデキサメタゾンを投与し、炎症性サイトカインであるIL-1βやTNF-αの合成を阻害し、髄液流出抵抗を低下させ血液脳関門を安定化させることも必要となる。1
<結論>
感染性心内膜炎による脳梗塞では、髄膜炎など中枢神経系の感染を来した場合に中枢移行性を考慮して薬剤を検討する必要があると結論付ける。
<参考文献>
- ハリソン内科学第5版 脳梗塞p2628、感染性心内膜炎p843、p848、急性細菌性髄膜炎p916
- 感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン (2017 年改訂版) p45
- Septic Embolism From: Murray and Nadel's Textbook of Respiratory Medicine (Sixth Edition), 2016
https://www.sciencedirect.com/topics/medicine-and-dentistry/septic-embolism
- Penetration of Drugs through the Blood-Cerebrospinal Fluid/Blood-Brain Barrier for Treatment of Central Nervous System Infections Clin Microbiol Rev. 2010 Oct; 23(4): 858–883.
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