アトピー性皮膚炎患者は健常者と比べてSSI(手術部感染)のリスクがどの程度増加するか?
今回担当した患者さんは、右膝半月板損傷に対する右膝半月板形成術・縫合術後のMRSAを起因菌とするSSI(手術部感染)による発熱で加療されており、アトピー性皮膚炎の既往がある。アトピー性皮膚病変は、抗菌ペプチドの発現低下などによる皮膚バリア機能低下によって、黄色ブドウ球菌などの細菌のコロニー形成を受けやすいことが知られているが1)、具体的にどの程度SSIのリスクを増大させるのか疑問に思い、考察した。
外科手術全般においての、アトピー性皮膚炎患者と健常者のSSIのリスクについて比較した論文を見つけることが出来なかった為、以下の文献を用いて考察したいと思う。
前十字靭帯再建術(ACLR)後のSSIの危険因子について分析しており、2010年から2015年までに関節鏡下ACLRを受けた30,245人のデータを、日本のDPCデータベースから抽出し患者の人口統計データとの関連多変量ロジスティック回帰モデルを用いて検討している。このうち、SSIは288人(0.94%)にみられ、これは他の文献で以前に報告された通り0.14-2.32%の範囲であった。アトピー性皮膚炎患者は、オッズ比7.19(95%信頼区間:2.94-17.57)でACLR後のSSIのリスクが高いことが判明し、整形外科手術後のSSIとアトピー性皮膚炎の関連性を示す最初の研究となった。2)
以上に加えて、同文献ではACLR後のSSIの罹患率は膝関節形成術、下肢骨折の外科的修復、脊椎手術などの他の整形外科手術後と比較して低いことを示しており、理由としてACLRで用いる人工材料および外科的創傷が比較的小さいこと、術中に関節内の空間が継続的に洗浄されていることを挙げている。よって、今回の症例に対して行われた半月板形成術・縫合術に関しても、ACLRと同じく関節鏡を用いている点や、創傷の大きさ・数、手術部位、使用する人工材料の大きさ等に大差がなく、術後SSIの罹患率が同様であると考えられ、ゆえにこの場合もアトピー性皮膚炎患者は健常者に比べて約7倍のSSIのリスクがあるのではないかと考察した。また、他の手術に関しては、アトピー性皮膚病変の出現しやすい部位を切開するか否か、また創傷の大きさ、等の要因でリスクが増減するのではないかと予測したが、裏付けるような文献を見つけることが出来なかった為、今後探していきたいと考えている。
参考文献
1)Ong PY, Ohtake T, Brandt C, Strickland I, Boguniewicz M,Ganz T, Gallo RL, Leung DY (2002) Endogenous antimicrobial peptides and skin infections in atopic dermatitis. N Engl J Med 347(15):1151–1160
2)Manabu Kawata, Yusuke Sasabuchi, Shuji Taketomi, Hiroshi Inui, Hiroki Matsui, Kiyohide Fushimi, Hideo Yasunaga, Sakae Tanaka. Atopic dermatitis is a novel demographic risk factor for surgical site infection after anterior cruciate ligament reconstruction. Knee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy (2018) 26:3699–3705
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