髄膜炎菌ワクチン接種の最適時期はいつか
一般にワクチン接種が推奨される条件としては、感染リスクが高まることが予想される、ないしはすでに高い状態であることであるが、それには①外的要因(流行地域への渡航、流行時期、集団生活、感染者との接触等)②内的要因(免疫機能抑制・低下状態、免疫に関わる臓器の未成熟等)が関わる。一方で、接種が推奨されない条件としては、有害事象リスクが接種することによるメリットを上回ることである。
まず、髄膜炎菌ワクチンが髄膜炎菌性髄膜炎予防に有効であるという報告は数多くあり、また髄膜炎菌性髄膜炎が無治療で最大50%の致死率、治療を行ったとしても10~15%の致死率、12~20%で重篤な後遺症(壊疽による手足切断、聴覚障害、言語障害、知能障害等)が残るという報告もあることから、感染リスクが高まる場合、余程の有害事象リスクがなければ接種が推奨されるはずである。以上のことから、接種の最適時期を考察するにあたって最も重視すべき情報は年齢や健康状態と有害事象リスクの関連であると考えた。
次に、髄膜炎菌性髄膜炎は規模の大小はあれど、アウトブレイクの報告が複数あるため、保菌や伝播についてもリスク群となりうる集団があれば接種が推奨されるべきであろう。
本テーマで扱う髄膜炎菌ワクチンにはATLRによるBcell活性を利用したMPSV4、Bジフテリアトキソイド等と結合させることでhelperTcellを介するBcell活性を利用したMCV4、CMenBOMVワクチン(MenB莢膜多糖はヒト神経細胞の多糖と構造的類似性があるため前者2つのようなワクチンが作成不可)がある。
4CMenBの有害事象の多くは2~11歳の小児や24カ月未満の乳幼児におけるものというドイツの報告があり、後遺症が残る、死亡等重篤な有害事象こそ2~11歳で0.4%、24カ月未満で0.6%と低いが、回復していないが2~11歳で8.9%、24カ月未満で14.1%である一方、12~17歳では重篤な有害事象はなく回復していないも3.4%にとどまると報告されている。また、中国における健康な6カ月~5歳までのHib-MenACワクチンによる有害事象が24カ月未満で46.8%、2~5歳で29.8%と報告されている。しかし、髄膜炎菌性髄膜炎は通常、年齢別で見ると、乳児において最も高頻度に見られるため、ワクチン接種によるメリットが小さいとは言えない。そして、年齢別発症率を見ると2番目のピークは若年成人〜青年に見られ、さらに保菌率においてもこの年代が最も高い(ヨーロッパにおける報告によると19歳以上で23.7%)と見られるため、感染の拡大を防ぐためにもワクチン接種が推奨されると考える。
以上より、感染リスクが高い場合、速やかにワクチン接種を推奨されるべきだが、例えば日本のように保因者の割合が低く、また感染のリスクが低い地域の場合、寮などの集団生活をする若年成人や、感染者と直接接触があるなど特殊な例を除いては必要はないと考えた。
本レポートにおいて残った課題としては、感染リスクが高いという言葉の定義がはっきりしない点、24カ月未満における有害事象リスクの詳細の検証である。
1)Reduction in Neisseria meningitidis infection in Italy after Meningococcal C conjugate vaccine introduction: A time trend analysis of 1994-2012 series.
2) https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/meningococcal-meningitis
3) Safety and immunogenocity of a novel combined Haemophilus influenzae type b-Neisseria meningitidis serogroups A and C-tetanus-toxoid conjugate vaccine in healthy Chinese children aged 6 months to 5 years old.
4) Optimal use of meningococcal serogroup B vaccines: moving beyond outbreak control.
5) Optimizing the timing of 4CMenB vaccination in adolescents and young adults based on immune persistence and booster response data.
6) Serogroup C Neisseria meningitidis disease epidemiology, seroprevalence, vaccine effectiveness and waning immunity, England, 1998/99 to 2015/16.
7) Meningococcal disease in adolescents and young adults: a review of the rationale for prevention through vaccination
8) Safety and immunogenicity of a pentavalent meningococcal conjugate vaccine containing serogroups A, C, Y, W, and X in healthy adults: a phase 1, single-centre, double-blind, randomised, controlled study.
9) The Global Meningococcal Initiative: global epidemiology, the impact of vaccines on meningococcal disease and the importance of herd protection
10) Adverse events following immunisation with a meningococcal serogroup B vaccine: report from post-marketing surveillance, Germany, 2013 to 2016
はい、時間切れでしたが、こういうのはCDCガイドラインを読むのが一番カンタンです。CDCガイドラインを批判することももちろん可能ですが、それはガイドラインを読んだ人が初めてクリティークできるのですから。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。