人工血管感染後の保存的治療が有効な場合はあるか?
腹部大動脈瘤破裂後に設置された人工血管が感染した場合、外科的人工血管摘出及びその周囲の組織のデブリードマン、長期間の抗菌薬使用を伴う解剖学的/非解剖学的血管再建術を行うことが大原則である。留置した人工血管を摘出せずに行う保存的治療が行われているのは重篤な合併症を有する患者か、胸部大動脈や大動脈弓の人工血管など摘出自体がハイリスクな場合(この中でも吻合部静脈瘤や吻合部出血、腸管侵食に関連していない場合)に消極的に行われている。今回この保存的治療が手術侵襲を減らすために積極的に推奨される場合があるかを調べた。
Ducasseらが行った1991年1月から2002年12月の期間に40の医療機関から報告された人工血管感染の症例群の分析では、65例の人工血管感染患者が確認され、保存的治療後の死亡率が36.4%、外科的治療後の死亡率が14%であった。一方Cernohorskyが行った1996年3月から2009年6月の期間の2つの大病院で腹部大動脈瘤治療患者に対するコホート研究では1431人の内11人の患者が人工血管感染を引き起こし、それらの患者について保存的治療と外科的手術の治療予後については差がないとされた。Moulakakisが行った保存的治療を行った群の予後に関するレビューでは、29例の患者群のうち抗菌薬治療のみを行った患者では12人の内6人(50%)が、抗菌薬治療に加えてドレナージ、デブリードマン、嚢の洗浄、及び大網充填術を行った患者では17人の内7人(41%)が追跡調査中に死亡した。全体での死亡率は45%であった。症例数が全体的に少ないため抽象的とは言えないが、保存的治療が積極的に治療成績で勝っているという結果は得られなかった。
保存的治療の推奨例であるにも関わらず手術治療を行った群と保存的治療を行った群との比較を研究した論文が見つからなかったため、保存的治療が手術治療と比較して有効かどうか、という考察はできなかった。
また逆に手術適応の患者が保存的治療を行った群と手術治療の群の比較研究も見つけられなかったため、積極的な保存的治療が勧められるかについて判断することも不可能であった。
保存的治療が奏功しないため手術治療が開発されたという歴史的背景から鑑みると現在の医療環境においての二つの治療群の差を研究することは難しいのではないかと感じた。
今後するべき事は手術治療が普及してきた時の二つの治療群を比較した論文検索と、当時と現在の医療環境の変化について調べる事で、現在の保存的治療の有効性が図れるのではないかと考えたが、時間的制約から及ばなかった。
参考文献
Management of aortic graft infections – the present strategy and future perspectives |
V. Treska, B. Certik, J. Molacek |
Outcome After Preservation of Infected Abdominal Aortic Endografts
Konstantinos G. Moulakakis, MD, George S. Sfyroeras, MD, Spyridon N. Mylonas
これはまさに、「保存的治療が奏功しないため手術治療が開発されたという歴史的背景か」がクリティカルで、よって、研究をデザインするのが難しいのです。保存的治療が許容される条件と、そのアウトカムに着目するとよいのでしょう。
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