注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
【感染症内科BSLレポート】
「ADPKDにおける腎嚢胞感染の検出に最も有効な画像検査は何か?」
・背景
常染色体優性多発嚢胞腎(ADPKD)は両側の腎臓に嚢胞が無数に生じる遺伝性疾患である。PKD1、PKD2遺伝子の遺伝子変異が関与しており、その患者数は本邦で31000人と報告されている。ADPKDにおける腎嚢胞感染は比較的稀な疾患ではあるが、PKD患者の約8%に腎嚢胞、肝嚢胞感染が発生するとされ嚢胞出血と並び重要な合併症の一つと考えられている。1)
腎嚢胞感染は、嚢胞穿刺を行いその排液から白血球もしくは微生物を認めることで確定診断に至る。しかし嚢胞穿刺は非常に侵襲的であり、どの嚢胞に感染が起こっているか分からないことが多いため困難な手技でもある。故に、腎嚢胞感染の診断では画像検査による診断が求められる。そこで今回は腎嚢胞感染の検出に最も有効な画像検査について検討していく。
腎嚢胞感染の診断に用いられる画像検査は主に造影CT、MRI、18F-FDGPET/CTの3種類である。これら個々の画像検査を用いて腎嚢胞感染の診断に至った症例報告は散見された。しかし、腎嚢胞感染自体が稀な疾患で有り症例数も限られていることから、腎嚢胞感染診断においてこれらの画像検査の有効性を比較した論文は3件しか見つけることが出来なかった。
Salleらは389人のADPKD患者における過去10年の嚢胞感染診断について後ろ向き研究を行った。1)389人中、嚢胞感染があったのは33人(再燃含めると41症例)であり、これらの診断には超音波、造影CT、MRI、18F-FDGPET/CTが用いられた。診断陽性の判定はCTでは嚢胞壁増強効果の存在、MRIではT1で高信号 T2 でさらに高信号 DWIで高信号であること、PETでは感染嚢胞に集積を認めることと定義された。それぞれの感度は順にエコー6%、CT 18%、MRI40%、PET/CT100%でありPETが最も高かった。しかし、PETは嚢胞出血との鑑別が困難であったと述べられている。対し、CTはPETと比較して嚢胞出血の診断には有用であったと報告されていた。
2014年にBalboらが行った嚢胞感染が疑われたADPKD患者28人を対象にした前向き臨床研究では画像診断感度がCT25.0%,MRI71.4%,PET/CT95.0%とやはりPET/CTの有効性が報告された。2)
また2015年にはBobotらにより腎嚢胞感染が疑われるADPKDに対してPET/CTとCTを行った24症例を対象にした後ろ向き研究結果が報告された。3)その研究によると、CTの感度は7%、陰性反応的中率は35%に対し、PET/CTの感度は77%、特異度は100%、陰性反応的中率は77%と診断能においてPET/CTが優れていると報告された。
また、PET/CTがADPKD患者の腎嚢胞感染の診断に有用であったという臨床報告は多く見られ、PET/CTは現在最も有効な診断方法と言えるだろう。4),5)
しかし、これらの論文のlimitationとして腎嚢胞感染が稀な疾患であるが故に症例数が限られておりその数値などに関しては不正確であるということが挙げられる。診断陽性の判定に関しても読影者の技能に左右されると予想され再現性には欠けると思われる。また、PET/CTは診断に有効な検査ではあるがCTやMRIに比べ費用も高く手間もかかり、費用対効果や患者の経済面などを考慮した場合PET/CTは検査の第一選択になり得ないだろう。
以上の結果より、ADPKDにおける腎嚢胞感染を診断するにはまず患者の腎機能に問題が無ければ造影CTで嚢胞出血などを除外鑑別する。それから患者の状態を見てPET/CTを施行し、それでも診断がつかない場合などにはMRIという流れが妥当であると考察した。しかし、腎嚢胞感染の画像診断は嚢胞出血や器質化した血腫との鑑別が困難であることが多く、その診断・治療には難渋するのが現状である。臨床の現場においては今回検討した画像評価に加えて腹痛部位や熱型の経時的な推移など臨床評価も含めた総合的な判断が必要になるだろう。
【参考文献】
1) Salle M et al :Cyst infections in patients with autosomal dominant polycystic kidney disease:Clin J Am Soc Nephrol,4:1183-1189.2009
2) Balbo BE et al :Cyst infction in hospital-admitted autosomal dominant polycystic kidney disease patients is predominantly multifocal and associated with kidney and liver volume:Braz J Med Biol Res;47(7):584-593.2014
3) Bobot M et al :Diagnostic performance of [(18)F]fluorodeoxyglucose positron emission timography-computed tomography in cyst infection in patients with autosomal dominant polycystic kidney disease:the official publication of the European Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases;22 (1):71-77;.2016
4) Kim Hyunsuk et al :Clinical experience with WBC-PET/CT in ADPKD patients with suspected cyst infection:A prospective case series:Ahn Curie Nephrology;23(7).2017
5) Albano Dominico et al :18F-FDG PET/CT demonstrated renal and hepatic cyst infection in a patient with autosomal dominant polycystic kidney disease:Nuclear medicine reviw;19(B).2016
寸評:診断の吟味には感度特異度が大事、そして感度特異度を求めるにはゴールドスタンダードが必須です。悩ましいですね、PCKD
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