注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科BSLレポート
「腹腔内膿瘍のドレナージが十分でない場合、抗菌薬投与の期間はどのくらいが適切か」
腹腔内膿瘍の原因になる基礎疾患には外科手術、腸管の虚血性病変、炎症性腸疾患、腸管穿孔、既存の腹腔内感染症などがあり、原因微生物は基本的には腸内細菌群と嫌気性菌である。治療としてはドレナージと抗菌薬投与が選択される。
IDSAガイドラインではドレナージが十分な場合、抗菌薬投与期間の推奨は4~7日間となっている。また1) Sawyerらは腹腔内感染症518例において、治療期間をexperimental groupとcontrol groupに分け、抗菌薬投与期間について前者を4±1日間、後者を発熱・白血球数、食事摂取不可の全てが改善してから2日間で抗菌薬終了とした。後者では結果的に抗菌薬投与期間が平均8日間となった。結果としてはドレナージが十分であれば、2つの群では創部感染、腹腔感染の再燃、死亡において差はなかった。つまり、ドレナージが十分であれば、抗菌薬投与期間は短期間で終了できることを示した。
では、患者が高齢である、複数疾患がある、膿瘍が解剖的に安全にドレナージできない、膿瘍が複数存在するなどの理由でドレナージが不十分な場合の抗菌薬投与期間はどのくらいが適切なのか。2) David M. Bamberger はドレナージ治療を行っていない細菌性膿瘍についてレポートした。1966年から1994年の間の文献の報告のうち治療された膿瘍は465例あり、これらの患者のうちドレナージなしの抗菌薬単独での治療成功率は85.9%であった。治療が失敗する要因としては大きさが5cm以上であること(OR=37.7;P=0.0003)、1個以上の臓器に膿瘍があること(OR=5.2;P=0.014)、膿瘍内のグラム陰性菌の存在(OR=3.4;P=0.022)、4週間未満の抗菌薬投与(OR=49.1;P<0.0001)、アミノグリコシドのみを使用すること(OR=11.8;P=0.008)があげられていた。抗菌薬投与の期間については465例中186例において記録されており、治療期間の中央値は42日間であり、3日間から1年間の範囲内であった。137例が4週間以上治療されており、そのうち136例で治療成功となっている。49例では4週間未満の治療期間であり、13例が治療失敗となっていた。(OR=49.1;95%CI,6.2 388;P<0.0001)
以上からドレナージが不十分の場合の腹腔内膿瘍については明確な研究がなされておらず抗菌薬治療期間について適切な期間というものは不明であった。しかし膿瘍に関して4週間未満の抗菌薬投与が治療失敗のリスクの一つしてあげられていることから少なくとも4週間以上が望ましいのではないかと考えた。
参考文献
2) Robert G. Sawyer, M.D., Jeffrey A. Claridge, M.D., Avery B. et al. Trial of Short-Course Antimicrobial Therapy for Intra-abdominal Infection N Engl J Med 2015; 372:1996-2005
1) David M. Bamberger Outcome of Medical Treatment of Bacterial Abscesses Without Therapeutic Drainage: Review of Cases Reported in the Literature Clinical Infectious Diseases, Volume 23, Issue 3, 1 September 1996, Pages 592–603,
寸評:はい、こういうプランB系の研究はこれから増えていくと思います。そして非劣性試験の価値も問われるのでしょう。
コメント
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