注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科BSLレポート
テーマ:深部SSIを経口抗菌薬投与で治療できるか?
SSI(手術部位感染)の予防における抗菌薬投与の有用性の評価に関する論文はたくさん存在するが、治療における経口抗菌薬の有用性を評価した論文や、静脈内投与と比較したものは見つけることができなかった。そこで第一に、そもそもSSIの治療において経口抗菌薬を投与することがあるのか無いのかという点について検討する。
ローザンヌ大学病院(CHUV)にて2012年2月1日から2017年10月31日までの間に結腸切除術を受けた1263人の患者における、術後30日までのSSIの発生率、タイミングおよび治療を評価することを目的とした前向き研究が行われた。271例(21%)でSSIを認め、表在性、深部、臓器の3つのグループに分けると、それぞれ53例(4%)、65例(5%)、153例(12%)であった。臓器SSIはまずアモキシリン(経口)もしくはピペラシリン・タゾバクタム(静脈内)でエンピリック的治療を受け(培養結果がでればその結果に基づいた抗菌薬を投与)、ドレナージ(ベッドサイドで創開口、穿刺、経皮的ドレナージ)もしくは全身麻酔下で外科的再手術を施行された。1)この論文ではアモキシリン(経口)もしくはピペラシリン・タゾバクタム(静脈内)をどのような患者に投与したのか、両者で治療効果が異なったのかなどという点については言及されていない。そのため有用性は定かではないが、少なくともSSIの治療において経口抗菌薬が選択されたことがあるということが分かる。
次に、経口抗菌薬単独投与ではないが、静脈内から経口投与へ変更しても有用かどうかを検討する。腹腔内感染症を有する459人の患者に対して、1995年9月から1997年5月の間に前向き、ランダム化、二重盲検、多施設臨床試験が行われた。この研究の目的は複雑な腹腔内感染症を有する成人においてシプロフロキサシン+ メトロニダゾール(CPFX+MNZ,静脈内→48時間後に経口摂取可能なら経口投与に変更)とピペラシリン/タゾバクタム(P / T,静脈内投与)の有用性を比較することであった。腹腔内感染症に関連する症状や徴候が消失することを臨床的成功と定義した。全臨床的成功率はCPFX+MNZ群で85%(69/81)、P/T 群で70%(28/39)であり(95% CI, 1.6–28.7%;P = .028)、CPFX+MNZ群で有意に高かった。最初にCPFX+MNZを静脈内投与、続いて経口投与を行うことは、P / Tの静脈内投与よりも腹腔内感染症の治療に対して臨床的に効果的であった。2)しかしこの研究はSSIの患者を対象にしている訳では無いこと、また、この結果は投与方法によるのではなく、抗菌薬の種類によって生じた可能性もあることを念頭におくべきである。
次に、どのような患者であれば経口抗菌薬が考慮されるべきか考察する。一般的な腹腔内感染後の予後不良因子として適切なデブリドマンまたはドレナージを行っても感染のコントロールが不可能、高齢(70歳以上)、初期治療介入の遅れ( 24時間後以降)などが挙げられる。3)血圧や意識レベルが不安定な場合や誤嚥の心配がある場合などは静脈内投与が推奨される。そのため、このような予後不良因子がない場合、すなわちデブリドマンやドレナージによって発熱、炎症反応などの臨床所見が改善するような軽症の場合に経口抗菌薬が考慮されるべきであると考える。
以上を踏まえると、腹部の深部SSIの治療に対する経口抗菌薬の単独使用の有用性には明確なエビデンスはない。しかし適切なデブリドマンやドレナージで臨床所見が改善する場合には、静脈内抗菌薬投与で治療した後、早期に経口抗菌薬に変更しても静脈内投与と同等の効果が得られる可能性もあると考えられる。
参考文献
1)D. Martin et al.Timing, diagnosis, and treatment of surgical site infections after colonic surgery: prospective surveillance of 1263 patients. Journal of Hospital Infection 100 (2018) 393-399
2)Stephen M. Cohn et al. Comparison of Intravenous/Oral Ciprofloxacin Plus Metronidazole Versus Piperacillin/Tazobactam in the Treatment of Complicated Intraabdominal Infections. Annals of Surgery 2000 Aug; 232(2): 254–262.
3)Miriam Baron Barshak et al. Section Editor:Stephen B CalderwooAntimicrobial approach to intra-abdominal infections in adults. Up To Date
寸評:これもテーマは面白かったですが、故に難しかったですね。
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