注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
『椎体炎で骨生検前の抗菌薬投与はどの程度培養結果に影響を及ぼすのか』
椎体炎に対する抗菌薬の開始は通常、血液培養か生検検体が得られてから行うべきとされている1)2)。一方で骨生検の場合では、事前の抗菌薬投与の有無に関わらず陽性となることが多いという記述もある3)。本レポートでは、椎体炎において生検前の抗菌薬投与がどの程度骨検体培養の結果に影響を及ぼすのかについて考察する。
まずは抗菌薬の骨への薬物移行性という観点から考察を加えていきたい。血中から骨組織への移行率は使用する抗菌薬によって差があると考えられるが、例えばCMZの椎骨への移行率を検討した報告4)では骨皮質17.6%、海綿骨17.4%であった。またCEZの腰椎椎間板への移行性を検討した報告5)では30例に1gCEZ静注を行い7-137分後に検体を採取したところ、血清CEZ濃度31.1-148mg/Lに対して、椎間板CEZ濃度は0-9.5mg/Lであった。これらから椎体炎の感染部位での抗菌薬濃度は血中抗菌薬濃度に比べ概ね低下していると考えられる。しかし抗菌薬投与の影響を評価するには、感染部位の腐骨の存在や血流の状態、膿瘍形成している場合はInoculum effect6)など様々な因子を考慮することが必要であり、薬物動態からアプローチするのは非常に困難である。
次に生検前の抗菌薬投与と骨検体培養結果の関係について研究を行った論文が複数見つかったので紹介する。Rankineらの報告7)では椎体炎20例を事前投与群(8例)と未投与群(12例)で比較したところ、骨検体培養陽性はそれぞれ2例、6例(25%vs50%)であった。同様にLucasら8)も46例に対して比較しており23%vs60%(p=0.013)と骨生検前の抗菌薬投与が培養検査の感度低下と関連することを報告している。それに対してMarschallら9)の92例に対する研究では事前投与群43例/60例(71.7%)vs未投与群18例/32例(56%)であり、多変数回帰分析を行ったところ抗菌薬投与と培養陰性の間に有意な関連はなかった(OR:2.3; 95% CI:0.8–6.2; p=0.1)。またLouis Dらの129例に対する報告10)でも事前投与群と未投与群で培養結果に有意な差はなかった。さらに後者2報では抗菌薬事前投与かつ培養陽性の群で菌の薬剤感受性をみているが、それぞれ72%、85%で事前投与していた抗菌薬に感受性がみられた。
これら4報のうち前者2報は骨生検前の抗菌薬投与により培養検査の感度が低下するという結果になっているが、後者2報と比べると対象とした症例数が少ないことが問題として挙げられる。また4報すべてに言えることだが、後ろ向き研究であるため抗菌薬の事前投与の有無に対して主治医の判断が介入している。すなわち、重症でエンピリックな抗菌薬投与が必要である患者が事前抗菌薬投与群に含まれやすいと考えられる。その他、骨生検前の抗菌薬投与期間が3日以下と4日以上で培養結果への影響が異なるという報告11)もあるが、4報とも事前の抗菌薬の投与期間については考慮していない。
以上の情報だけでは骨生検前の抗菌薬投与が培養結果にどの程度影響を与えるかについて判断することはできない。また投与する抗菌薬の種類、事前の投与期間、感染の活動性なども考慮する必要があると思われる。抗菌薬投与の骨検体培養への影響の評価が困難である以上、患者の状態が安定しているのであれば事前の抗菌薬投与は控えるのが望ましいと考えられる。
References
- Berbari EF, et al. 2015 Infectious Disease Society of America (ISDA) Clinical Practice Guidelines for the Diagnosis and Treatment of Native Vertebral Osteomyelitis in Adults. Clin Infect Dis 2015;61: e26-45.
- Werner Zimmerli. Vertebral Osteomyelitis. N Engl J Med 2010;362: 1022-9.
- Tahaniyat Lalani, Steven K Schmitt. Osteomyelitis in adults: Clinical manifestations and diagnosis. In: UpToDate, Post TW (Ed), UpToDate, Waltham, MA. (Accessed on October 31, 2018.)
- 河路 渡ほか. Cefmetazoleの骨・関節組織への移行性に関する基礎検討. 臨床と研究 1982;59(10): 3393-3396
- Rebecca Walters, et al. Penetration of Cephazolin in Human Lumbar Intervertebral Disc. SPINE 2006;31(5): 567-570
- Brook I. Inoculum Effect. Clin Infect Dis 1989;11(3):361-8
- Rankine JJ, Barron DA, Robinson P, Millner PA, Dickson RA. Therapeutic impact of percutaneous spinal biopsy in spinal infection. Postgrad Med J 2004;80: 607-9.
- de Lucas EM, Gonzalez Mandly A, Gutierrez A, et al. CT-guided fine-needle aspiration in vertebral osteomyelitis: true usefulness of a common practice. Clin Rheumatol 2009;28: 315-20.
- Marschall J, Bhavan KP, Olsen MA, Fraser VJ, Wright NM, Warren DK. The impact of prebiopsy antibiotics on pathogen recovery in hematogenous vertebral osteomyelitis. Clin Infect Dis 2011;52: 867-72
- Louis DSII, Vladimir Labalo, Joel Fishbain, Susan Szpunar, Leonard BJ. Lack of effect of antibiotics on biopsy culture results in vertebral osteomyelitis. Diagnostic Microbiology and Infectious Disease 2018;91: 273-274
- Kim CJ, et al. Microbiologically and clinically diagnosed vertebral osteomyelitis: impact of prior antibiotic exposure. Antimicrob Agents Chemother 2012;56:2122-4
寸評:面白いテーマ。議論も良かったです。ただ、結語がいきなり飛びましたね、論理の飛躍。リスクを吟味するときは必ず両方向性に。ま、医者もこの点ではしばしば失敗していますけどね、ワクチンとか抗菌薬とか、、、
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