注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
CIED埋め込み術前の抗菌薬投与は術後感染予防に有効か
植え込み型心臓電気デバイス (Cardiac Implantable Electronic Device;CIED)埋め込み術前の抗菌薬投与が術後感染予防に有効かどうかは確立されていない。術前抗菌薬投与が術後感染予防に本当に効果があるのか気になったのでそれについて調べた。
CIED埋め込み術前の感染予防のための抗菌薬治療が術後感染率を低下させるかを検討した二重盲検ランダム化比較試験1)において2003年の7月1日から2005年の12月31日までに649人が登録された。その内、314人が術前にセファゾリンを1g(抗菌薬投与群)、335人が術前に生理食塩水を(プラセボ群)静脈内投与された。経過観察は退院後10日、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月に行われた。術後感染は抗菌薬投与群で2例(0.63%)、プラセボ群で11例(3.28%)認められ、術後感染は抗菌薬投与群で有意に少なかった(リスク比0.19)。それに加え単変量解析、多変量解析のいずれにおいても感染の予測因子としてセファゾリンの不使用が同定された。
また、別の論文ではCIEDの術前感染予防としてバンコマイシンによる感染予防の有効性があるかを検討したコホート研究2)において2008年の1月1日から2015年1月1日の間にCIEDの手術を受けた10,454人が登録された。それらの98%が平均年齢71±12歳の男性で施され、4248人に対して術前24時間以内にバンコマイシンが投与され、残りの6206人にセファゾリンが投与された。バンコマイシンとベータラクタム系抗菌薬を併用した患者はバンコマイシン群に含まれた。そして術後6ヶ月以内のCIED術後感染発生率を調べた。その結果、CIED術後感染はバンコマイシン群で43例(1.01%)、セファゾリン群では21例(0.34%)と有意にバンコマイシンの方が多く(p<0.001)、また、ロジスティック回帰分析では単独またはベータラクタム系抗菌薬と併用したバンコマイシンの使用が、セファゾリンと比べてCIED術後感染のリスクを高めることが分かった。(オッズ比2.99、p<0.001)
以上のことからセファゾリンの術前投与は術後感染予防に対して有効であると考えられる。また、バンコマイシンの術前投与はセファゾリンの術前投与と比べて術後感染予防に効果が劣ることも分かった。これらのことから、基本的にCIED術前の抗菌薬投与としてはセファゾリンに効果があると言える。ただ、MRSAの保菌者やβラクタム系抗菌薬に対してアレルギーを持っている患者に対してはバンコマイシンの術前投与も考慮に入れる必要がある。よって今後はバンコマイシン術前投与と抗菌薬術前投与なしを比較した前向き試験を行うことでバンコマイシンが術前投与に有効かどうかを確かめていくことが望まれる。
(参考文献)
⑴de Oliveira JC, Martinelli M, Nishioka SA, et al. Efficacy of antibiotic prophylaxis before the implantation of pacemakers and cardioverter‐defibrillators: Results of a large, prospective, randomized, double‐blinded, placebo‐controlled trial. Circ Arrhythm Electrophysiol. 2009;2:29–34.
⑵Preoperative antibiotics and cardiovascular implantable electronic device infection: A cohort study in veterans. 2018 Sep 17. doi: 10.1111/pace.13499.
寸評:「比較した前向き試験を行うことで」は間違いです。このような、RCTすれば、的な結語じゃないとだめ、という風潮にだまされないようにしましょうね、という話をしました。適切なスタディーデザインは適切な臨床クエスチョンから導き出されるのでしたー。
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