注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
中心静脈カテーテル(CVC)挿入後カテーテル関連血流感染症(CRBSI)発症までの期間の違いは患者の予後に影響するか
CVCの挿入により血管壁やカテーテルそのものに血栓が形成され、それが塞栓子となって塞栓症をきたすことや、血栓を足場に細菌が発育してCRBSIが発症することが患者の予後を悪化させうることは知られている。1)そこで一般に概説やガイドラインでは記述されていない上記のテーマに関して検討することにした。
CRBSIの診断は、以下の3つの条件のうちいずれかを満たすことで行われる。2)
・血液培養とカテーテルチップの培養から同一細菌が検出されること(後者の定量培養で15コロニー以上)
・血液培養とカテーテル内血液の培養から同一細菌が、後者にて前者より120分以上早く検出されること
・血液培養とカテーテル内血液培養で同一細菌が検出され、定量培養にて後者で前者の3倍の菌量が検出されること
今回のレポートでは、胸腹部手術などで使用する皮膚から直接内頚静脈、鎖骨下静脈、大腿静脈を穿刺しカテーテルの先端を上大静脈または下大静脈に留置するものをCVCとし、短時間抜去は通常想定されず感染リスクは少ないと報告されているCVポートや、末梢の静脈からアプローチするPICC(peripherally inserted central catheter)、また長期の留置(月~単位)が可能な皮下トンネル形カテーテルに関しては除くこととする。
CRBSI患者の予後に言及した文献の一つとして、スペインの9病院の集中治療室で行われたCRBSI患者の予後(院内死亡または非死亡)に関する前向き研究の結果をまとめた文献3)を参照した。この研究によると、多変量解析にて有意に死亡率が高かったのはAPACHE(acute physiology and chronic health evaluation)Ⅱスコアが高値の場合(P=0.015)であり、逆に低かったのは発症後24時間以内にCVCが抜去された場合(P=0.030)であった。CVC挿入からCRBSI発症に至るまでの期間は分析される要素には含まれていなかった。
CVC挿入からCRBSI発症までの期間によって予後に差が生じるかどうかについて直接言及した文献はpub medで検索したが見つけられなかった。いかに感染を起こさないようにするかに関する文献がほとんどであり、単にCVC挿入後のCRBSIの予後に関しての文献すら数十程度しか存在しなかった。例えば、CVCが留置されているが他の人工物の挿入がないCRBSI患者を、年齢・性別や合併症にできるだけ差がないように調整した上で、CVC挿入後発症までの期間ごとにいくつかの群に分けて、それぞれの予後(死亡率やICU入室期間)の違いについて分析した後ろ向き研究が存在すればテーマに対する答えを導くことができたと考えられる。
参考文献
1.Reston N Smith,Jerry P Nolan(2013) Central venous catheters.BMJ 347:f6570
2,Harshal Shah,Wendelyn Bosch et.al(2013) Intravascular Catheter-Related Bloodstream Infection.
The Neurohospitalist 3(3)144-151
3,Jose Garnacho-Montero et.al(2008) Risk factors and prognosis of catheter-related bloodstream infection in critically ill patients:a multicenter study.Intensive Care Med 34:2185-293
寸評:探してみると、データがないことってありますよね。でも、そのデータがないこと「そのもの」が示唆的なのです。無いデータ、はあるデータ同様に、有用です。
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