注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
食道・胃の手術部位感染(SSI)において起因菌にCandidaを想定して抗真菌薬を使うとしたら、どういう条件下においてか
Candidaは食道・胃のSSIの起因菌の約6%1)であり、食道・胃のSSIにおいて推奨される治療は、高率に分離される細菌を想定した経験的抗菌薬投与である2)。食道・胃の場合、Pseudomonas aeruginosa、Enterobacter cloacae、Enterococcus faecalis、MRSAなどが主な分離菌として挙げられ1)、これらに対する抗菌薬が選択される。
経験的抗菌薬投与をしても症状の改善が認められなかった場合、抗真菌薬の投与を考慮するかについてだが、侵襲性Candida症が疑われる場合に、経験的抗真菌薬投与を行うと、侵襲性Candida症の発症を有意に低下させるという報告がある3)。
現在ではCandida定着、疾患の重症度、広域抗菌薬への暴露、最近の大手術(特に腹部手術)、壊死性膵炎、透析、非経口栄養、コルチコステロイドおよびCVCの使用といった侵襲性Candida症のリスク因子を持ち、発熱に他の理由がない場合や、β-Dグルカンが陽性の場合に経験的抗真菌薬投与が推奨されている3)。
しかし、ICUにて移植の既往や好中球減少がなく、複数部位でのCandida定着、多臓器不全を有する重症敗血症患者に対してミカファンギン投与群とプラセボ群で28日間での侵襲性真菌感染症のない状態での生存期間に有意差が見られなかったと報告されている4)。リスク因子が経験的抗真菌薬投与の指標となることについては、侵襲性Candida症のリスク因子を持つ患者を2つの群に分け、経験的抗菌薬投与群とプラセボ群で侵襲性真菌感染症のない状態での生存期間に有意差が見られるかについての比較試験など今後さらなる臨床試験が必要だと考えられる。
このように経験的に抗真菌薬の投与をすべきかどうかについては基準やエビデンスが不十分であると考えられる。ガイドラインに従えば、食道・胃のSSIにおいて経験的抗菌薬の投与に対して不応であった場合、侵襲性Candida症のリスク因子、β-Dグルカンなどを考慮した上で、起因菌にCandidaを想定して抗真菌薬を使用するのが良いことになるが、それが正しいかについては判断できない。
1) 日本環境感染学会 サーベイランス結果報告2012-2016
2) 感染症専門医 テキスト 2017年
3) Renaud Piarroux, Frédéric Grenouillet, Patrick Balvay, et al : Assessment of preemptive treatment to prevent severe candidiasis in critically ill surgical patients. Crit Care Med 32:2443-2449, 2004
4) Peter G. Pappas, Carol A. Kauffman, David R. Andes, et al : Clinical Practice Guideline for the Management of Candidiasis: 2016 Update by the Infectious Diseases Society of America.
5) Jean-Francois Timsit, MD, PhD, Elie Azoulay, MD, PhD, Carole Schwebel, MD, PhD, et al : Empirical Micafungin Treatment and Survival Without Invasive Fungal Infection in Adults With ICU-Acquired Sepsis, Candida Colonization, and Multiple Organ Failure: The EMPIRICUS Randomized Clinical Trial. JAMA 316(15):1555-1564, 2016.
寸評 OK、いいでしょう。よく勉強しているし、結語までの理路もよかったです。
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