注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「市中発症の頸部膿瘍に対して緑膿菌をカバーする抗菌薬を投与する必要があるのか」
深頸部感染症は耳鼻咽喉科領域の最も重篤な感染症のひとつであり,その重篤な合併症により対応を誤れば死に至る危険性が高いため適切な治療が必要である。その治療としては適切な抗菌薬治療と切開・排膿,デブリードマン,気管切開術などの外科的治療である。1)
その中で抗菌薬治療に関して、一般的に院内感染の原因菌である緑膿菌をカバーした抗菌薬を選択する必要があるのかを調べてみることにした。
634例の市中発症の深頸部感染症患者を調べた後ろ向き研究では、514の検体から細菌が同定され、最も一般的な好気性細菌はStreptococcus pyogenes (41%)、およびStaphylococcus aureus (32%)で、Pseudomonas aeruginosaは3例(0.5%)同定されている。2)
また270例の深頸部感染症患者を調べた後ろ向き研究では、深頸部感染症の原因として口腔内感染がもっとも頻繁なものであった。3)
口腔内感染における細菌叢の検出をテーマにした論文では、この研究で対象になった26人の患者から主にStreptococcus属、嫌気性連鎖球菌が培養され、緑膿菌は1例も検出されなかった。4)
以上のことから、市中発症の深頸部感染症で緑膿菌が培養された例はあるが、深頸部感染症の原因として最も多い口腔内感染では緑膿菌が問題となることは極めて稀である。
したがって全ての市中発症の頸部感染症の患者に緑膿菌をカバーする抗菌薬を投与する必要性は低いと考えられる。
1)感染症専門医テキスト第Ⅰ部 解説編:南江堂
2) Celakovsky P, Kalfert D, Smatanova K, Tucek L, Cermakova E, Mejzlik J, Kotulek M, Vrbacky A, Matousek P, Stanikova L, Hoskova T.: Bacteriology of deep neck infections: analysis of 634 patients.: Aust Dent J. 2015 Jun;60(2):212-215
3) Gujrathi AB, Ambulgekar V, Kathait P.: Deep neck space infection - A retrospective study of 270 cases at tertiary care center.: World J Otorhinolaryngol Head Neck Surg. 2016 Dec 22;2(4):208-213
4) Fating NS, Saikrishna D, Vijay Kumar GS, Shetty SK, Raghavendra Rao M.: Detection of Bacterial Flora in Orofacial Space Infections and Their Antibiotic Sensitivity Profile.: J Maxillofac Oral Surg. 2014 Dec;13(4):525-532
寸評 シンプルですが、悪くないレポートです。
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