注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
Candidemiaを疑うが血液培養陰性であった時、何を指標に治療を開始すべきか
侵襲性カンジダ感染症は敗血症の10~15%を占め、カンジダ血症および侵襲性カンジダ感染症を有する患者の死亡率は25~40%である。1)
カンジダ血症の診断のゴールドスタンダードは培養検査であるが、血液培養検査の感度は約50%と報告されている。1)このように血液培養検査の結果のみから診断することは困難であり、カンジダ血症であることを疑うが血液培養検査で陰性となった場合何を指標にして抗真菌薬治療を開始すべきかについて調べた。
深在性真菌症のガイドラインによると培養検査陰性の場合、患者のリスク因子や臨床症状、真菌学的検査、血清診断によって治療を開始すべきとある。2) カンジダ症の発症リスクは、広域抗菌療法、中枢静脈カテーテル、非経口栄養、腎不全、胃腸管の外科手術、好中球減少症、コルチコステロイド療法などがあり4)、臨床症状には、広域抗菌薬不応性の発熱、肝臓や脾臓の多発膿瘍、網膜の滲出性病変が挙げられている。3) また、推奨されている検査法として記載されているのは血清(1,3)-β-Dグルカン(β-DG)であり2)、その他にも、血清中のマンナン抗原、カンジダDNAのPCRが近年開発されている。5)
カンジダ血症の患者におけるβ-DG・カンジダDNAのPCR・その他マーカーの有用性を評価した2007年の論文によると、それぞれのマーカーを組み合わせることの有用性と、PCRの診断価値が示されている。研究対象としているのは、血液培養検査でカンジダ陽性となった患者27人、血液培養検査陰性となったが臨床的にカンジダ血症が疑われ本研究でカンジダ血症があると見なされた39人(広範囲抗菌薬治療で4日間反応しない発熱があり、長期入院、解剖学的部位からのカンジダ種の検出、静脈カテーテルおよびラインの存在、外科手術歴、免疫抑制療法のいずれかが存在する)、およびコントロール群(カンジダ膣炎患者および健常者)26人である。結果として血液培養陰性群では、β-DGとマンナン抗原とPCRを組み合わせることで54%の感度を示した。5) しかしコントロール群に他の真菌感染症患者や敗血症患者などが含まれていないため、実臨床の場で用いられるデータであるかは疑問である。
また2013年のβ-DGとPCRの有用性を分析したメタアナリシスによると、血液培養陰性であった場合のβ-DGの感度特異度は62%と73%であり、2回連続して陽性となればさらに精度が向上することが述べられたがこの点に関して具体的な記述は見つけられなかった。さらにPCRの感度と特異度は88%と70%であり、β-DGと比較して優れていることが述べられた。しかしβ-DGとPCRを組み合わせた場合のデータは記載されていなかった。6)
以上のデータには感度に大きな差が見られる。研究対象としている患者背景によってそれぞれの研究によって導かれた感度特異度は大きく異なることが予想されるため、実臨床の場で指標にするためにはその研究がICUレベルの患者を対象にしているものなのかどうかなど考慮する必要がある。
以上より、患者のリスク因子と臨床症状に加え、β-DGとPCR検査の結果の組み合わせのように複数の補助診断を組み合わせたもの、もしくは連続した検査結果を複合的に踏まえたものを、抗真菌薬治療開始の指標とすべきだと考える。
参考文献
1)外科系・救急・集中治療領域におけるカンジダ感染症に対する診療指針 外科系・救急・集中治療領域における
Antifungal Stewarship VOL.62 NO.6
2)深在性真菌症の診断・治療ガイドライン2014 深在性真菌症のガイドライン作成委員会
3)日本医真菌医学会 侵襲性カンジダ症の診断・治療ガイドライン
4)Goldman-cecil Medicine Lee Goldman, Andrew I. Schafer Chapter 338 CANDIDIASIS
5)Comparative evaluation of (1, 3)-β-D-glucan, mannan and anti-mannan antibodies, and Candidaspecies-specific snPCR in patients with candidemia BMC Infectious Diseases20077:103
6)Finding the “Missing 50%” of Invasive Candidiasis: How Nonculture Diagnostics Will Improve Understanding of Disease Spectrum and Transform Patient Care Clinical Infectious Diseases, Volume 56, Issue 9, 1 May 2013, Pages 1284–1292
寸評;これは感度、特異度の「クオリア」を掴んでなかったことからくる失敗レポートです。でも、学生のときに数字のクオリアを知識として掴むのは困難、あるいは不可能です。少しずつ習得していきましょう。
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