注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科BSLレポート 「カンジダ菌血症において、なぜ眼内炎の発生が多いのか」
カンジダ属が血行性に播種した場合、網脈絡膜に感染し眼内炎(endophthalmitis)をおこし、進行すると視力低下や失明をもたらすので眼内炎への対策が必要となる。眼内炎の原因微生物は細菌、真菌、寄生虫など[1]とされるが、各々の原因微生物が血行性に播種した場合の眼内炎の発生頻度を直接比較した確かな知見は発見できなかった。しかしながら、眼内炎を併発した菌血症の患者の眼から微生物を同定すると、真菌が細菌より多く(真菌:59%~62%[2][3]])、その中でもカンジダが優位に多かったという報告があるのに加え、入院患者の血液培養で同定された微生物の70%以上が細菌で、真菌より多かった[4]という報告から、同一施設のデータ内の比較ではないので推定の域を出ないものの、カンジダ菌血症における眼内炎の発生は他の微生物の場合と比して多いと考えられる。そこで今回は題にあげた疑問をもって考察した。なお本症例との関連から手術や外傷による外因性ではなく内因性眼内炎のみに焦点をあてた。
カンジダ血症から波及した眼内炎の動物実験にOmutaらの報告がある[5]。Omutaらは計66羽の日本白ウサギに対し、ステロイドで免疫抑制状態にした群と免疫状態正常の群に分け、Candida albicansを静脈内に接種して眼内炎を生じさせ両群での眼底所見と眼組織、及び眼以外の諸臓器(脳、腎、心、肝)の組織学的変化を経時的に観察した。両群ともにまず初日に腎臓でカンジダを確認し、眼球所見は接種3日後から確認された。まず、網膜、脈絡膜に酵母が見られ、ついで脈絡膜への多核球優位の細胞浸潤が徐々に網膜内部や硝子体へ移行する経過をとった。偽菌糸体は全過程を通じて少数で、経時的に真菌は減少した。ステロイド投与群での違いは、炎症細胞の浸潤が経時的に単球優位に変遷せず、多核球優位のままという点と、菌体が確認された臓器が腎と眼のみでなく、7日目には脳と心臓にも病変が確認された点であった。ステロイドは多核球の機能や遊走を抑制するので、投与群で病変がより多く見られたのはカンジダに対する免疫機構が弱体化した結果と言える。
上の実験において、血流が豊富な腎や、周囲に血管が多く存在する脈絡膜や眼球赤道面から病変が生じたこと、複雑な血管叢や有窓毛細血管が豊富な眼球後面に広がったことを踏まえると、血流が多くなるほど菌が付着しやすくなり病変形成とつながるかもしれない。一方で、腎や眼に比べ肝臓・心臓・脳に病変が生じにくいのは血流の多寡のみでは説明がつかない。臓器ごとの血管の構造の違いや、偽菌糸、酵母などの形態の違いが付着の違い、菌体の炎症惹起能力がかかわるかも知れない。実際、Candida albicansが生体への定着には細胞壁の外層のβ-1,6グルカンに結合している細胞壁タンパク質が機能を果たすが、その細胞壁蛋白の1つであるadhesinに含まれるHwpl (hyphal wall protein1)はヒトの頬粘膜上皮への強固な付着に関わることが知られている[6]。同様に脈絡膜組織に関わる細胞壁蛋白があるかもしれない。
以上より、眼において炎症が起きやすいのは、豊富な血流を有する眼組織の解剖生理学的要因と、菌体の付着性と炎症惹起能力の要因を含めたカンジダの眼組織への親和性が眼内炎の高頻度の発生に関与していると推測した。
今回の治験はあくまでウサギのCandida albicansへの反応を見たものでありCandida albicans以外のカンジダ属のヒト体内での動態の詳細についてはわからなかった。またカンジダ属以外の微生物の眼組織に対する親和性を示唆するような知見は得られず、眼組織への親和性の違いと眼内炎の発生頻度の違いとの関係性は詳細にはわからなかった。
参考文献
[1]:ハリソン内科学日本語訳第五版
[2]:[Endogenous endophthalmitis:microorganisms,disposition and prognosis] Ness T et al. Acta Ophthalmol Scand 2007 Dec;85(8) 852-6
[3]:[Culture-proven endogenous endophthalmitis: clinical features and visual acuity outcomes] Schiedler V et al. American journal of ophthalmology 2004 Apr;137(4):725-31
[4]:厚生労働省院内感染症サーベイランス事業 http://www.nih-janis.jp
[5]:[Histopathological study on experimental endophthalmitis induced by bloodstream infection with Candida albicans] Omuta J et al. Jpn.J.Dis.,60,33-39,2007
[6]: Jpn.J.Med.Mycol. vol 50 179-185,2009
寸評:「何故」質問って答え出しにくいんです。でも、学生のときはこのくらい挑戦しなくちゃね。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。