注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
糖尿病透析患者の感染症リスクはどのくらい高いのか?
疫学的に、糖尿病患者は感染症にかかりやすいことが知られている。糖尿病患者は、肺炎、尿路感染症、皮膚感染症などのいくつかの感染症に対してより罹患率が高いと考えられている。感染症は悪性新生物、血管障害に続いて、日本の糖尿病患者の死因第3位(14.3%)を占めている1)。
また、透析患者では、感染症は死因の第1位(25.8%)を占めている2)。透析患者が感染症で死亡する割合は、非透析患者の7.5倍である3)。
透析患者の原因疾患の第1位は糖尿病性腎症(43.5%)であるが2)、前述のデータより極めて感染症になりやすいであろうと考えた糖尿病性腎症で透析導入となった患者に限局した場合、どの感染症がどれだけの感染リスクがあるのか、調べることにした。
しかし、糖尿病透析患者はどの感染臓器、あるいはどの感染微生物にどれほど感染しやすいかについて述べている論文は見つからなかった。
イギリスのマクドナルドらの研究では下記の3つの感染症に限定して腎機能ごとに罹患率を比較している。eGFRが60 mL / min / 1.73 m2以上の糖尿病患者に対して、eGFR 45〜59、30〜44、15〜29、<15mL / min / 1.73 m2の糖尿病患者では、肺炎になったのはそれぞれ0.95倍、1.19倍、1.73倍、3.04倍であり、敗血症となったのはそれぞれ1.11倍、1.51倍、2.50倍、5.56倍であり、下気道感染症(インフルエンザ、急性気管支炎を含む)になったのは、それぞれ1.03倍、1.08倍、1.17倍、1.47倍であった。これより糖尿病患者は腎機能が悪いほど感染症にかかりやすいと結論づけている4)。
糖尿病透析患者と非糖尿病透析患者を比較したとき、感染しやすさに大きな差はないとしているイランの論文もあるが(透析患者の感染症のリスクファクターとして重要なのは糖尿病よりも心血管疾患である)5)、日本の戸井田らの研究では、IRH(infection-related hospitalization)は、糖尿病を有する血液透析患者において、糖尿病のない患者よりも頻繁に観察された。また、透析患者において血糖コントロール不良(HbA1c≥7.4%)がIRHと関連していることが明らかになっている。しかし、糖尿病患者の血糖コントロールとIRHの関係は直線的ではなく、最も血糖コントロールの低い患者のみがIRHのリスクが高かった。
糖尿病透析患者がどのくらい感染症にかかりやすいか、という具体的な数値は出せなかった。末期腎不全である糖尿病透析患者は、特に血糖コントロールが良好でない場合、より感染症にかかりやすいといえる。
1) アンケート調査による日本人糖尿病の死因 2006
2) わが国の慢性透析療法の現況 2014
3) わが国における透析患者の感染症死亡率は一般住民の7倍である 2013
4) CKD and the Risk of Acute, Community-Acquired Infections Among Older People With Diabetes Mellitus: A Retrospective Cohort Study Using Electronic Health Records 2015
5) Clinical outcomes and quality of life in hemodialysis diabetic patients versus non-diabetics 2017
6) Glycaemic control is a predictor of infection‐related hospitalization on haemodialysis patients: Miyazaki Dialysis Cohort study (MID study) 2016
寸評:難しいテーマでど真ん中をヒットしませんでしたが、「わからないことがわかる」のは大事で、研究テーマの萌芽でもあります。
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