注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
Clostridium Difficile腸炎再発の危険因子は何か
Clostridium difficileは院内感染下痢症の原因として一般的な細菌であり、20%から30%の患者に再発されるとされている[1]。本レポートでは何がC. difficile腸炎再発の危険因子になるのか調べた。
一つ目のメタ解析による研究[1]ではデータベース検索で該当した467の研究の中で重複や互いに関連しているものをスクリーニングし、多変量解析がなされていないものや小児科に限定した研究を除外した33の研究データを用いて解析を行っている。結果は相対危険度が高い危険因子から順に経鼻経管栄養(患者数532、相対危険度1.79、95%信頼区間0.96-3.36、P値=0.07)、経過観察中の抗菌薬投与(患者数8194、相対危険度1.76、95%信頼区間1.52-2.05、P値<0.00001)、65歳以上の高齢(患者数3375、相対危険度1.63、95%信頼区間1.24-2.14、P値=0.0005)、腎不全(患者数1486、相対危険度1.59、95%信頼区間1.14-2.23、P値=0.007)、プロトンポンプ阻害薬(患者数4392、相対危険度1.58、95%信頼区間1.13-2.21、P値=0.008)、フルオロキノロン投与歴(患者数6622、相対危険度1.42、95%信頼区間1.28-2.05、P値<0.00001)となった。
高齢は重要な危険因子でありC. difficile毒素に対する免疫応答の障害が再発の要因になることを示されている。また、スペクトラムの広い抗菌薬の投与による正常細菌叢の破壊が再発につながると考えられる。プロトンポンプ阻害薬や腎不全も胃酸分泌を抑制することでC. difficileのコロニー形成リスクを高めるということが報告されている[1]。
また、別の論文のシステムレビュー[2]でも高齢、抗菌薬の投与、プロトンポンプ阻害薬は再発のリスクと関連していることが示されている。このレビューでは研究数が不十分でメタ解析を行うことができない危険因子としては血清アルブミン値2.5g/dl未満(オッズ比1.74、95%信頼区間1.11-2.77)やリンパ球減少症(ハザード比2.18、95%信頼区間1.08-4.39)、低ナトリウム血症(オッズ比5.16、95%信頼区間2.0-13.31)、便中IL-8高値(オッズ比2.7、95%信頼区間1.01-7.4)、糖尿病(オッズ比3.04、95%信頼区間1.84-5.03)、手術歴(オッズ比14.67、95%信頼区間1.23-174.3)といった要素がC. difficile腸炎の再発率を高めるという報告がある。ただし、これらの指標は研究数が少ないため信頼性を高めるために更なる研究報告が必要である。
以上より高齢、経過観察中の抗菌薬投与、腎不全、プロトンポンプ阻害薬、フルオロキノロン投与歴が信頼性の高い危険因子となる。しかし、高齢以外の因子は薬剤投与量や期間、腎不全の診断基準が研究によってことなるためこれらの差異が再発に与える影響は精査する必要がある。また、メタ解析が行えなかった指標に関しても手術歴や低ナトリウム血症、糖尿病はオッズ比が高いことから再発の危険因子として注目に値すると考えられる。
参考文献
- Deshpande A, Pasupuleti V, Thota P, et al. Risk factors for recurrent Clostridium difficile infection: a systematic review and meta-analysis. Infect Control Hospital Epidemiology 2015; 36:452–60.
- Abou Chakra CN, Pepin J, Sirard S, Valiquette L. Risk factors for recurrence, complications and mortality in Clostridium difficile infection: a systematic review. PLoS One 2014; 9:e98400.
寸評:直接指導できなくてすみません。4年生の段階ではこのレポートでよいと思います。ときに、低ナトリウム血症がCDI再発のリスクになるのはなぜでしょうか。むしろこれは「原因」というより「結果」(あるいは副産物)ではないでしょうか。ORだけでは原因はわからないことも多いですからそこは考えましょう。さて、ときに質問です。このレポートを受けて、我々は患者さんにどうすべきだと思いますか。
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