注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科BSLレポート
「人工関節感染においてリファンピシンを併用したほうがいいのか。」
人工関節感染(Prosthetic Joint Infection ; PJI)は、人工関節置換術後の最も深刻な合併症である。PJIの治療には、長期にわたる抗菌薬の投与が必要であり、侵襲的な手術を何度も受けなければならない場合もある。PJIの原因微生物としては、黄色ブドウ球菌が最多(22 %)で、次いでコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(19 %)と40 %以上をブドウ球菌が占める1)。米国感染症学会のガイドラインでは、ブドウ球菌によるPJIの内科的治療にはβラクタム系抗菌薬もしくはバンコマイシンのいずれかとリファンピシンの併用が勧められている2)。しかしながら、この事項を推奨する根拠は不十分とされており専門家の間でも意見が割れている。では、PJI治療においてリファンピシン併用の是非について検討していきたい。
1998年にZimmerliらは、整形外科のインプラント関連のブドウ球菌感染患者33人を対象としてリファンピシン併用の有効性を調査したランダム化比較試験を行った3)。患者は、2週間のフルクロキサシリン(アレルギーがある場合にはバンコマイシン)静注にリファンピシンを併用した後、フルクロキサシリンをシプロフロキサシンに変更しリファンピシン併用して治療した群(n=18)と、リファンピシンの代わりにプラセボを用いた群(n=15)に分けられた。抗菌薬治療は、股関節置換、内固定具の患者は3ヶ月、膝関節置換の患者は6ヶ月継続した後、臨床的な感染症状(発熱、局所痛、発赤、熱感、瘻孔)が認められずCRP<5 mg/Lを満たした場合中止した。治癒の定義は発熱等の感染症状が無いこと、CRP<5 mg/Lであること、X線写真で人工関節の弛みがないことと設定し、治療開始から24ヶ月後に評価した。結果は、治癒率は併用群:100 %に対し単剤群:58 %(p=0.02)と有意に差がみられた。また、治療失敗した単剤群の患者のインプラントから採取した検体の培養ではシプロフロキサシンに耐性が生じていることが分かった。以上より、リファンピシンとシプロフロキサシンの併用療法は、インプラント関連のブドウ球菌を排除するだけでなく、シプロフロキサシンへの耐性の出現を抑えることからも、インプラントを温存する場合の内科的治療として推奨されると結論づけられている。
しかし、この研究の対象は33人と少なく、対象となった患者は、インプラントに弛みがなく安定している点、治療開始するまでの感染症状が出ている期間の中央値が4〜5日である点、人工関節術から2ヶ月以内の感染である点と対象患者群の選択が限定的である。PJIは、術後早期に発症する早期感染と、術後3ヶ月以降に発症する遅発性感染の2つに大別される。この分類を用いると、Zimmerliらの研究は早期感染に対してはリファンピシン併用が有用である可能性を示していると言えるが、遅発性感染に関しては明らかではない。そして、早期感染であっても人工関節抜去術や再置換術の適応ではない患者に対して経口抗菌薬による長期の抑制療法を行う場合には、リファンピシンの副作用や耐性の出現を考慮すれば積極的に勧めることはできないと考える。
また、上記の研究はリファンピシンに併用する抗菌薬としてシプロフロキサシンを選択しているが、シプロフロキサシンはグラム陽性菌、陰性菌のいずれにも活性のある広域抗生物質であり、薬剤耐性を考慮すると原因菌が判明した時点でより狭いスペクトラムのものに変更するべきである。それゆえに、原因菌がブドウ球菌であるPJIに対してシプロフロキサシンが長期間投与されることは望ましいとは言えず、この研究をそのまま実際の臨床現場に応用することはできないと考える。したがって、PJIの内科的治療を行う場合、リファンピシンの併用は必ずしも推奨されるものではないと考えられる。
参考文献
1) Elie Betbari et al. Prosthetic joint infection : Epidemiology, clinical manifestation, and diagnosis : Up To Date
2) Douglas R et al. Diagnosis and Management of Prosthetic Joint Infection: Clinical Practice Guidelines by the Infectious Diseases Society of America : 2013 Clinical Infectious Diseases
3) Werner Zimmerli et al. Role of Rifampin for Treatment of Orthopedic Implant–Related Staphylococcal Infections : 1998 Journal of the American Medical Association
寸評;ガイドラインに書いてあっても正しいと即断できないことって結構あります。よく吟味しました。
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