注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
結核の診断に胸部単純X線は有用か
私の担当症例は、検診で撮影した胸部単純X線写真の所見から結核が疑われたが、精査の結果結核ではないと診断された。そこで、胸部単純X線検査は結核の診断に有用か疑問に思い、調べた。
結核の画像診断の基本は胸部単純X線であり、画像所見は結節影、小粒状影、浸潤影、肺門・縦隔リンパ節腫脹など多様である。1)
Zohar Morらは、2001年7月から2005年12月までにエチオピアからイスラエルに移住した移民の中で、胸部単純X線が撮影された13379人を対象に後ろ向き研究を行った。対象には妊婦、1歳未満の幼児、質の低いX線画像は含まれていない。肺結核疑いの胸部単純X線所見とは、上または中肺野への浸潤、胸水所見、気管支肺炎、空洞所見、浸潤影、肺門または縦隔リンパ節腫脹または放射線科医の“結核疑い”のコメントがあることと定義された。肺結核疑いの所見があった150人中、肺結核と診断されたのが46人。X線所見陰性の13229人中11人が肺結核と診断された。この集団での、事前確率は0.43%、感度は80.7%、特異度は99.2%、陽性尤度比は103.4、検査後確率は30.3%。2)
S.den Boonらは、2002年に南アフリカのケープタウンにある2つの都市で行われた結核有病率調査を後ろ向きに研究した。塗抹標本または喀痰培養で少なくとも1回の結核菌陽性の時、細菌学的結核と定義する。結核様のX線所見とは、浸潤影、空洞、微小結節、肺門リンパ節腫脹、胸水貯留と定義される。無作為に選ばれた2608人の成人の内、細菌学的に結核と診断されたのが29人で、そのうち結核様のX線所見陰性が3人。また、細菌学的に結核でない2579人のうち、結核様のX線所見陽性が311人であった。この集団での、検査前確率は1.11%、感度は89.7%、特異度は87.9%、陽性尤度比は7.43、検査後確率は7.68%。3)
私が調べた論文では、Zohar Mor らの研究では陽性尤度比が103.4、S.den Boonらでは7.43となった。研究対象期間の地域ごとの結核の有病率は、エチオピアで344/100,000人、南アフリカで341/100,000人で、平成28年の日本では13.9/100,000人であった。検査のきっかけは、エチオピアからの移民を受け入れる際の健康診断、南アフリカでの結核有病率調査と異なっていた。
Zohar Mor らとS.den Boonらの研究は、対象地域での有病率が近いが、結果がかけ離れていた。その理由としては、まず患者背景が移民と都市部の住人であり衛生環境や生活水準が異なる集団であることが挙げられる。Zohar Mor らの集団の有病率はエチオピアの有病率と比較して高くないが、1999~2005年までのアメリカへの移民の結核罹患率は961/100,000という報告がある。4)移民は結核のハイリスク群である可能性があり、移民という集団の特異性が結果に寄与したかもしれない。4)またX線所見陽性者の割合が150/13322(1.13%)vs337/2579(13.1%)と大きく異なる。この理由は2つの研究での所見陽性とする基準、読影技術、写真の質が異なることが考えられるが、論文からは読みとることはできなかった。これらを加味して、検査対象を限定することや結核疑いの胸部単純X線所見の基準を調整することで胸部単純X線の結核診断における有用性を向上させる可能性はあるが、一般化することはできないため、今の段階で胸部単純X線写真が有用であるとは言えない。
担当症例に当てはめて考えるために、日本の検診で胸部単純X線所見から結核疑いとされた患者数とその内の結核患者数などの最新データが必要であったが、見つけられなかった。
【参考文献】
1)日本結核病学会、結核診療ガイドライン改訂第3版、P25-28、南江堂
2)Mor Z1, Leventhal A, Weiler-Ravell D, Peled N, Lerman Y. Chest radiography validity in screening pulmonary tuberculosis in immigrants from a high-burden country. Respir Care. 2012 Jul;57(7):1137-44.
3) den Boon S1, White NW, van Lill SW, Borgdorff MW, Verver S, Lombard CJ, Bateman ED, Irusen E, Enarson DA, Beyers N, An evaluation of symptom and chest radiographic screening in tuberculosis prevalence surveys. Int J Tuberc Lung Dis. 2006 Aug;10(8):876-82
4)Liu Y1, Weinberg MS, Ortega LS, Painter JA, Maloney SA, Overseas screening for tuberculosis in U.S.-bound immigrants and refugees. N Engl J Med. 2009 Jun 4;360(23):2406-15.
寸評 あまりうまくまとまらなかったですね。担当した患者さんの役に立つレポートにするのが基本ですから。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。