注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
疑問点:HIV感染症に関連する精神障害にはどのようなものがあるか?
HIV感染症においては、高頻度に精神障害が合併することが国内外の研究であきらかになっている。1)また重篤な精神病患者においてHIV陽性率が高いことも指摘されており、HIV感染症診療において精神障害への対応は重要な問題であると考えられる。HIV感染症において、精神症状を引き起こす要因として挙げられるのは、患者の元来の素因(発達障害、人格障害など)、心理社会的ストレス、中枢神経障害、治療薬の副作用、依存性薬物である。それらが原因となって起きる、HIVに合併する精神症状としては以下のようなものがある。2)
1. HIV感染に伴う心理・社会的ストレスにより適応障害を発症する。またはうつや不安障害の発症や増悪のひきがねとなる。
2. HIV感染症そのものや、日和見感染症によって生じる脳器質障害が脳器質性精神障害(HIV関連認知症/運動コンプレックス)を引き起こす。HIVの感染者の一部には、重篤な認知症や運動障害、行動異常をきたすことが知られており、従来はAIDS脳症/HIV脳症と呼ばれていた。現在はARTの進歩によりこれらの重篤な症状を呈するHIV感染者は減少している。HIV関連神経認知障害合併例では、非合併例と比べて、死亡率が上昇することが報告されている。脳器質性障害として、例えばAIDSに伴う中枢神経系原発悪性リンパ腫では、腫瘍の占拠部位によって症状は異なるが、非HIV感染者に比べてけいれんや意識状態の変化がよく見られる。HIVと梅毒は合併が高い。その理由としては、双方とも同じ性行為感染症であると同時に、梅毒がHIVの感染リスクの相対危険度を高める原因になることがあげられる。HIV感染症に合併した梅毒では、非合併感染例と比較して、神経梅毒の頻度が高いと報告されている。3)
3. 抗HIV薬ならびに日和見感染症治療薬が中枢神経系に作用を及ぼして精神症状が出現することもある。抗HIV薬にはQOLに大きな影響を与える副作用や服用期間や食事制限などの服用条件を持つものが多く、長期服用すること自体が精神的、身体的ストレスになる場合もある。たとえば、抗HIV薬の非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)のひとつであるエファビレンツには、希死念慮を伴う抑うつ、不眠、焦燥、幻覚、集中力低下などの多彩な精神症状の副作用が指摘されている。またインテグラーゼ害薬のドルテグラビルでも、疲労、頭痛、めまい、不眠、悪夢などの副作用があらわられることがある。
4. HIV感染症においては感染ハイリスクとも関連して、依存性薬物による物質関連障害が高頻度に合併することが指摘されている。アメリカではHIVの患者の精神疾患の中で最も多く見られるのは薬物乱用・依存であり、アメリカで実施されたHIV Cost and Services Utilization Studyでは、HIV感染者の12%に薬物依存が、50%に薬物乱用が認められている。1)
まとめ
HIVが近年の適切な治療を受ければすぐに死にいたる病気ではなくなり、長期療養をする患者が増加している中で、患者のQOLを高めるためには、これらの精神障害に適切に対応していくことが必要であると考えた。
参考文献
1. Psychiatric Disorders and Drug Use Among Human Immunodeficiency Virus–Infected Adults in the United States Arch Gen Psychiatry. 2001;58(8):721-728.JAMA Psychiatry
2. 長期療養時代のHIV感染症/AIDSマニュアル 味澤 篤
3. Rompalo A, Epidemiology, clinical presentation, and diagnosis of syphilis in the HIV-infected patient, UpToDate Ver16.1
寸評:テーマは悪くないし、よくまとまっていると思います。カンファで指摘した問題点は修正してきましたね(笑)
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