注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科BSLレポート
「感染性心内膜炎において起因菌によって脳梗塞発症リスクに差はあるのか」
感染性心内膜炎(IE)は脳血管合併症を高頻度に伴うことが知られている。特に脳梗塞は起こりやすいとされており、Grabowskiらは神経学的症候のあるIEでは20%、神経学的症候のないIEでは46%に脳血管塞栓があったと報告している。*1今回私は起因菌によって脳梗塞のリスクは異なるのか疑問をもったため調べてみた。
MartinらによるIE疑いの患者60例に対する前向き研究では無症候性脳血管合併症18例、症候性21例の併せて39例(65%)で脳血管合併症がみられた。症候性群ではStaphylococcus aureusが起因菌であるものは他のViridans group streptococci、Coagulase-Negative-Staphylococci、Enterococcus sppなどの起因菌と比較して脳血管塞栓を起こす確率が有意に高かったことが報告された(P=0.01)が、無症候性群で脳血管塞栓が見られた例では原因菌による有意差はみられなかった。*2
スペインでの、1345例のIE患者についてのCabreraらによる大規模後ろ向き研究では起因菌がSAであった263例のうち20%にあたる52例で脳血管塞栓がみられた(症候性と無症候性の両方を含む)。他の起因菌に関して、総数に対して脳血管塞栓が見られた割合は以下の通りだった。
Viridans group streptococci:280例中35例(12.5%)
Coagulase-Negative-Staphylococci:179例中27例(15%)
Enterococcus spp:168例中18例(11%)
この結果から、Staphylococcus aureusを起因菌とするIEでは脳塞栓をおこす確率が他の起因菌よりも有意に高かったことが報告された。(p<0.001)*3
これら2つの研究から、Staphylococcus aureusを起因菌とするIE患者では他の起因菌によるIE患者に比べて脳血管塞栓症を起こしやすいことが報告されたが、Martinらの前向き研究では症例数が少なく、Cabreraらの大規模研究に関しては過去の症例研究であるため、ややエビデンスレベルが低くなる。今回のテーマである、脳梗塞に限定した、起因菌による発症リスク差に言及した質の高い大規模前向き研究は見つけることができなかった。
また、Staphylococcus aureusを起因菌とするIEが脳血管塞栓を起こしやすくなる理由に関しても有用な論文を見つけることができなかった。
(参考文献)
*1
Clinically overt and silent cerebral embolism in the course of infective endocarditis.
Grabowski, Hryniewiecki T, Janas J, Stępińska J.
J Neurol. 2011 Jun;258(6):1133-9.
*2
Cerebrovascular complications in patients with left-sided infective endocarditis are common: a prospective study using magnetic resonance imaging and neurochemical brain damage markers.
Ulrika Snygg-Martin, Lars Gustafsson, Lars Rosengren, A˚sa Alsio¨, Per Ackerholm,
Rune Andersson, and Lars Olaison
Clin Infect Dis. 2008 Jul 1;47(1):23-30
*3
Neurological complications of infective endocarditis: risk factors, outcome, and impact of cardiac surgery: a multicenter observational study.
García-Cabrera, Fernández-Hidalgo N, Almirante B et.al
寸評:テーマ設定、データ、データの解釈と上手にまとめています。無症候性をちゃんと吟味しているのも良いし、データの拡大解釈がないのも良いと思いました。佳作です。佳作っていい意味なんだよ、ちなみに。
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