注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
『バンコマイシン静脈投与で薬疹を示す患者は、その他の投与方法でも薬剤へのアレルギー反応を示すか』
(患者情報含むため冒頭はカット)
バンコマイシンの投与法として、静脈投与の他は経口投与や髄中、antibiotic-laden cement(ABLC)が挙げられる。
経口投与においては、McCullough JMらによる、慢性腎不全の82歳女性がクロストリジウム・ディフィシル腸炎の治療の為に経口でバンコマイシンを投与した後に、全身に発疹および掻痒感を認めた症例報告が存在した。このケースがバンコマイシンへのアレルギー症状を示唆する可能性はある1)が、薬疹の診断根拠は明確に示されておらず、これだけでは経口投与によってアレルギー反応が起こるとは断定できない。
髄注においては、研究もそれだと思われる症例報告も見つけることが出来なかった。よってこれに関しても論じることができない。
ABLCにおいては、Williamsらによる、バンコマイシンに対しスティーブンス・ジョンソン症候群をきたしたことのある患者がバンコマイシン含有セメント移植後に全身性落屑性皮膚炎を発症した症例報告があった。Naranjo有害事象因果関係判定スケールにおいて、バンコマイシンのスコア8であり、これは有害な薬物反応の可能性を示す。皮膚生検はスティーブンス・ジョンソン症候群を起こした時のものがなかったため、今回の症例と比較することはできなかった。しかしスティーブンス・ジョンソン症候群を引き起こした際のエピソードと同様の特徴があったこと、バンコマイシンを含むセメントの移植と症状のタイミング、セメント周辺が最も重症であること、他の最もらしい原因がないことなどから、バンコマイシンが原因薬剤だと考えるのが最も自然である。2) M.Chohfiらの研究では、バンコマイシン入りセメントの薬物動態についてin vitro実験の後に30頭のヒツジ大腿骨で研究され、その後10人の患者の全人工股関節形成術にバンコマイシン入りセメントを使用し観察した。患者らの移植後6,12,24時間後に採取した血液、排液、尿の検体でバンコマイシン濃度を測定し、排液の場合は2~5日、血液や尿の場合は10日間毎日測定した。すべての患者は最低2年間の臨床的および放射線学的追跡調査を受け、最大4年間の追跡調査を受けた。この研究によると、非常に低レベルではあるが、ABLCに含まれるバンコマイシンは血流に乗り全身に吸収される。3)よってABLCに含まれるバンコマイシンによって全身性のアレルギー反応をきたすことがあると考えても良いだろう。
これらを鑑みると、バンコマイシン静注に対し薬疹を示す患者は他の投与法においてもアレルギー反応を示すことは有り得るが、それが必ず起こるものであると結論付けることはできない。また、考察に大規模な比較試験などでないケース・スタディーを用いたことにより、可能性を一般化するには根拠が乏しい。だが、あらかじめ静注でのバンコマイシンアレルギーが判明している患者や、スティーブンス・ジョンソン症候群など重症薬疹の被疑薬にバンコマイシンが挙がる場合には、有用性に議論が残るABLCを使用するメリット以上にリスクが上回るのではないかと考える。ただしバンコマイシンという幅広いスペクトラムを持つ抗菌薬を除外する行為は、有効な投薬の幅を著しく狭めることとなるため、過去の薬疹疑いだけで安易にこれを除外することには慎重になるべきであろう。
<参考文献>
1) Oral vancomycin-induced rash: case report and review of the literature:McCullough JM, Dielman DG, Peery D. DICP. 1991 Dec;25(12):1326-8.
2) Diffuse Desquamating Rash Following Exposure to Vancomycin-Impregnated Bone Cement:Williams B, Hanson A, Sha B. Ann Pharmacother. 2014 Aug;48(8):1061-1065. Epub 2014 Apr 16.
3) Pharmacokinetics, uses, and limitations of vancomycin-loaded bone cement:
寸評:良いレポートです。どうも学生のレポートは帰納法ばかりで演繹法が上手く使えていないことが多いですが、このレポートは上手な演繹法が使えています。結語までの展開も無難でした。
- Chohfi, F. Langlais, J. Fourastier, J. Minet, H. Thomazeau, M. Cormier Accepted: 30 November 1997
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