注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
BSL感染症内科レポート
「アスペルギルス膿胸はどのような患者で発症しやすいのか?」
アスペルギルス膿胸は発熱、咳、体重減少といった症状が典型的で、胸水培養や胸膜・肋膜の生検でアスペルギルスが確認されることで組織学的に診断される1)。代表的なアスペルギルスの感染症にはアスペルギローマ・アレルギー性気管支肺アスペルギルス症・侵襲性肺アスペルギルス症・慢性肺アスペルギルス症といった4つのものがある2)。この4つの病態で発症の危険因子は明らかにされているが、アスペルギルス膿胸発症の危険因子の記載はなかったので、どのような患者で発症しやすいのか調べてみた。
Koらは1990年1月から1997年12月の間に胸水培養で真菌が陽性となった患者67人に対して後向き検討を行った3)。うち9名(12%)がアスペルギルス膿胸患者であった。このうち84%が院内感染によるものであった。また、79%に易感染性となる背景疾患があり、60%の患者に広域スペクトラムの抗菌薬が投与されていた。真菌性膿胸の主な原因としては腹部/胸部の手術後・先行する気管支肺炎といったものが多かった。
Nigoらは2005年1月から2013年8月まで真菌性膿胸を発症している悪性腫瘍患者97人に対して後向き検討を行った4)。この検討でアスペルギルス膿胸患者は12人(12%)であり、カンジダ膿胸の患者との2群に分けて比較した。アスペルギルス膿胸患者は全て侵襲性肺アスペルギルス症と診断されており、アスペルギルス膿胸患者では1ヵ月以内の腹部/胸部の手術が膿胸の主な原因となった患者はいなかった。患者数の総数が少ないことやこの検討が後向きであることを考えるとアスペルギルス膿胸発症の危険因子になりえないとは言えない。
その他のケースレポートで、アスペルギルス膿胸はアスペルギローマによって形成された空洞が破裂することや、先行する慢性の膿胸に合併することによって発症するという報告もあった5)。
さらに、Faridらは1996年9月から2011年9月までの間に肺アスペルギルス症の手術を行った患者30人に対して後向き検討を行った6)。対象となった30人の中でアスペルギローマの患者が12人、慢性肺アスペルギルス症の患者が18人であった。術後にアスペルギルス膿胸を合併した患者はアスペルギローマ患者より慢性肺アスペルギルス症患者の方が多く、全体で20%いた。そしてアスペルギルス膿胸を合併する危険因子として胸膜肥厚、菌球形成、表面が不規則な空洞形成、広範囲にわたる病変、手術部位への放射線治療、肺葉切除術など胸部の手術といったものが挙げられていた。アスペルギローマと慢性肺アスペルギルス症の術後にアスペルギルス膿胸を引き起こす可能性もあるが、この検討ではこれのリスクを正確に定量することはできなかった。
上記の検討は真菌性膿胸について検討であることやアスペルギルス膿胸についての検討でないため、アスペルギルス膿胸発症の危険因子となるかは判断できない。このテーマについてPubMed・UpToDate・書物で検索したもののアスペルギルス膿胸の一般的な危険因子について参考にできそうな文献を見つけることができなかった。アスペルギルス膿胸は患者が少なく大きな研究があまり行われていないためではないかと思われる。以上の検討よりこれらの検討からアスペルギルス膿胸を発症する危険因子を同定することはできなかった。
参考文献
- Clinical Microbiology and Infection Vol.7 2001 “Chronic forms of pulmonary aspergillosis” p.25-31
- Fraser and Pare’s Diagnosis of Disease of the Chest 4th Edition Vol.2 Part5 PULMONARY INFECTION p,921 W.B. SAUNDERS COMPANY
- Ko SC, et al; Fungal emphyema thoracis: an emerging clinical entity. Chest.2000.
- Nigo M, et al; Fungal emphyema thoracis in cancer patients. J Infect. 2016
- Meredith HC, et al; Pleural aspergillosis. AJR Am J Roentgenol 1978; 130:164-166
- Farid S, et al; Results of surgery for chronic pulmonary Aspergillosis, optimal antifungal therapy and proposed high risk factors for recurrence-a National Center’s experience. Journal of Cardiothoracic Surgery 2013 8: 180
寸評: 良いレポートです。レポートは情報を集めて貼り付けるのではなく、知の分水嶺をひいていくことです。そういう意味ではこのまれな現象の分水嶺が見事に扱われていると思います。ご苦労様。
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