D「まあ、白状すると、俺様も優秀な研修医が集まるブランド病院で優秀な研修医を教えるほうが楽しい、そう思ってた時期はある」
S「はあ。そういえば、D先生って以前はすごい有名な「あの」病院で指導医してましたよね」
D「そうだよ」
S「D先生もエリート指導医だったんだ」
D「そうだよ」
S「そして身を持ち崩し、落ちぶれてここにやってきた」
D「首絞めんぞ。ていうか、お前も天に唾吐いてるじゃんか」
S「冗談ですよ」
D「真顔で冗談言うな。おまえの首に手をかけそうになったぞ」
S「やっぱ冗談と主治医は慎重に選ぶべきですね。間違えると命にかかわる」
D「小話やってんじゃねえ。とにかく、そうやってスーパーな研修医たちを教えてたんだけど、でも、あるとき気づいたんだ。あいつらは、俺様が教えなくても普通に優秀に育っていく。俺様の存在価値は相対的に小さいってな」
S「ふうむ」
D「環境が整った農場で野菜育てても面白くないだろ。やっぱ、石ころや切り株が転がった、草木も生えないような荒れ地を耕すほうがフロンティアスピリッツ刺激すると思わないか?」
S「ここがそのフロンティアだと?」
D「そう。俺様は、むしろ優秀じゃない研修医を教えるほうが面白い。出来の悪いやつを育てて、優秀なやつに化けさせるんだ。荒れ地の開拓だ。ジョン・フォードだ!」
S「ふるすぎて分かりません」
D「優秀じゃあない研修医ほど、優れた指導が必要だ。優秀な研修医は何もしなくても育つし、ある意味おせっかいな教育は邪魔なだけだ」
S「確かに、優秀な研修医にとっておせっかいで(わりと間違ってる)指導医ってウザい存在かもしれませんね」
D「でな、一見、優秀じゃない研修医でもこれが見違えるほど化けることがあるんだよ。まじで」
S「本当ですか〜〜?」
D「本当だ。もちろん、そうじゃないことも多いけどね。けど、数年に一回大化けするそういう研修医を見ているだけで、俺は荒れ地にいることを幸せに思うぞ」
S「なるほど」
D「いずれにしても、優秀な研修医には指導なんて、要らん。少なくともそんなに手厚くは、必要ない。手厚い指導が必要なのは優秀じゃない研修医だ」
S「ま、そうですね」
D「そして、優秀じゃない研修医を教えるには優れたスキルが要る。優れた研修医は、言えば分かるからスキルは要らん」
S「確かに〜〜」
D「優れてない研修医こそが、優れた指導医を生むんだよ」
S「北風がバイキングを育てる、ですね」
D「何をするだーーー!」
S「また、分からない内輪のギャグを〜」
第86回「優秀じゃない研修医を教えよ」その2 終わり
続く。
この物語はフィクションであり、DとSも架空の指導医です。
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