D「結論を言おう。できるだけベッドサイドで研修医や学生を教えろ」
S「そうですか?」
D「理由その一。ベッドサイドで所見を見ながら教えたほうが、教育効果は高まる。リアルな患者を目の前にして観念的なティーチング、例えば酸塩基平衡みたいなのを教えると、リアルと観念がうまく融合して、理解しやすいし、記憶にも残りやすい」
S「なるほど」
D「理由その二。患者の目の前でディスカッションすると、診療方針に至るまでの理路が患者に見える。歯医者に行ったとき、何が怖いって「俺の口の中で何が行われているか分からない」ことだろ。優れた歯医者は「今○○やってるとこです」と逐一説明してくれたり、鏡で見せてくれたりするじゃない」
S「また、マジック・リアリズムですね」
D「患者だって、自分の診療がどうなっているか不安なんだよ。その意思決定プロセスが目の前で展開されれば、例え完全には理解できなくても安心を与えるものだ」
S「なるほど」
D「理由その3。目の前で指導医が指導することで、指導医もちゃんと患者ケアにコミットしており、研修医ほったらかし、まかせきりになってはいないのだと伝えることができる。研修医だけが診療してんじゃないかと不安に思っている患者は多い。ま、大学病院とかでは本当にほったらかしだったりするけどな」
S「いやいやいや、そんなことないですよ」
D「理由その4。そうやって、一所懸命患者の前で議論することで、我々が一所懸命あなたのことを考えているのだ、という好印象を植え付けることができる。患者が我々に好印象を持ってくれれば、治療計画もスムースだし、治療もうまくいく可能性が高まる」
S「えーーー、それってずるくないですか」
D「ずるいもんか。じゃ、お前患者が疑心暗鬼になって「こいつら医者なんて信用できるか」って態度で腕を組んで眉間にシワをよせて、懐疑的な態度でいたほうが治療がうまくいくと思うか?」
S「いや、そりゃ、まあ」
D「本質だろうがファンタジーだろうが、「この先生たちに任せていれば私は大丈夫」と信じている患者と、「こんな医者共で本当に大丈夫なんだろうか」と疑いの塊になってる患者と、どっちが治りやすいと思う?前者に決まってんだろ?そのための演出だ。アウトカムさえ得られれば、手段は関係ない!岩田健太郎の「患者様が医療を壊す」読んでないのか。タイトルはイマイチだが、中身は悪くないぞ」
S「宣伝しないでください、どさくさ紛れに」
D「ま、そんなわけで患者の前でディスカッションしたりティーチングするのは色んな意味でいいことなんだ。もちろん、何でもかんでも議論できないこともあるし、相部屋とかで隣の患者とかに気を遣わねばならないこともあるから、ここでも二元論的に全部ベッドサイドでやる必要はない。しかし、少なくともベッドサイドの議論を徒にタブー視する根拠はないってことだ。わかったか?」
S「はーい」
第74回「患者の前で教えよう」その2 終わり
続く。
この物語はフィクションであり、DとSも架空の指導医です。
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