D「もちろん、何もしなくてよいとは言ってない」
S「と、いいますと?」
D「つまりな、フォローは必要なんだよ。でも、S先生が自分でフォローすると叱った効果が目減りしてしまうし、将来的にもよろしくない」
S「はい」
D「だから、他人にフォローさせるんだ」
S「ええ?」
D「そうだな。おすすめとしては、同級生、あるいは1,2年先輩かな。ちょっと呼びつけて、「あいつ、俺が叱って落ち込んでるみたいだから、ちょっとフォローしてやっとけよ」とか言うんだ」
S「それでいいんですか?」
D「いいんだよお。通常、部下は上司に仕事を任されるのが嫌いだ。面倒くさいからな。でも、こういう「フォローしといてやれよ」は、嬉しいものだ。人間的に頼りにされている感があるからな」
S「はあ」
D「ここで、「フォローしといてやれよ」と言った研修医も籠絡するのだ~」
S「なんかずるい~」
D「当たり前だ。「兵は詭道なり」と孫子さまも言うておろうが。敵を騙すにはまず味方から」
S「それ、例え間違ってますよ」
D「一粒でも二度美味しい。ある研修医を叱責し、その研修医を別の研修医にフォローさせ、そのフォローさせる研修医のハートをぐっと掴む。転んだらたくさん石を拾い上げるまでは、立ち上がるなという尊い教えだ」
S「ほんまかいな」
D「研修医に研修医をフォローさせるのは、精神面での慰撫のためだ。研修医が犯したしくじりは消失しない。S先生に叱責された根拠も消失しない。しかし、叱られて落ち込んだその精神のみが慰められるんだ。教育効果を減じることなく、メンタルヘルスにも配慮を示す、高等テクニックだと思わんかね??おまけにこちらの信者を一人増やす可能性が高い」
S「うーん、なんとなく言われてみれば、そうなのかも、という気もしてきました」
D「まわりの研修医にそっとフォローさせてた、なんて美談はいずれ人の噂になる。それを叱責された研修医自身が聞いてくれれば、しめたものだ。間接的に、「そうか、表では厳しいことを言っていても、やっぱりS先生は俺のことを考えてくれてたんだ」と勘違いしてくれる」
S「勘違いじゃありませんってば」
D「勘違いでいいんだよ。研修医なんて単純なんだから。こうやって二重三重に仕掛けを作って人心掌握に励むんだ。普通に仕事して、普通に教育するだけでアウトカムが出せると思ったら大間違いだ。人たらしとは、キャラを指す言葉ではない。戦略を指す言葉なのだ」
S「じゃ、なんでD先生はこんなに研修医に人望がないんですか?」
D「ほっとかんかい!」
第66回「第三者にフォローさせよう」その2 終わり
続く。
この物語はフィクションであり、DとSも架空の指導医です。
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