D「S先生、ちゃんと研修医を指導しとるかね?」
S「任せてください。D先生の指導通り、ちゃんと質問して、質問させて、自分で調べてこさせてますよ」
D「そのわりには、彼らの調べてきたことって浅くないか?」
S「D先生も気づきましたか?まあ、間違ったことは言ってないんですけど、ちょっとチープなコメントが目立ちますよね。なんでなんでしょうね」
D「S先生、研修医が何を読んで調べ物をしてるか、確認してたかい?」
S「あ、いえ、それは」
D「出典を確認するのは指導のい、ろ、は、だそんなこともできてないようで、よくもまあナイスでイケメンで尊敬される指導医の役回りをやってられるな」
S「先生のその罵倒は慣れましたよ。すみません、うっかりしてました
D「俺はもう調べてある。さっき図書館で研修医が読んでた本を取り上げてスマホで写真撮っといたからな。本人と一緒に」
S「まさそんなハラスメントまがいのことを、、、」
D「読んでいたのは、イヤーノートと「病気が見える」だったよ」
S「ええーっ」
D「ありがとう。正常な反応を。「それで?」とか流されてたらどうしようかと思ったよ」
S「それで薄っぺらい反応だけだったんですね」
D「そうだ。もちろん、俺はイヤーノートや「病気が見える」の存在そのものは否定しない。でも、あれは国家試験に受かるための試験向けのあんちょこだ。通常の診療には使えない」
S「うーん。雰囲気では分かりますし、ぼくもイヤーノートとかは使わないですけど、やっぱり診療には使えないんでしょうか」
D「おや、これは異なことをいうな、S先生。君はイヤーノートとか「病気が見える」のどこに問題点があるのか、分かっていないのかい?」
S「ええ、開いたことないですし」
D「それがだめなんだ~、ゆとり世代は。批判の対象にしたいのなら、しっかり読み込まなきゃ、だめじゃないか」
S「そうですか?」
D「そうだよ。あのな、ああいうテキストは「典型像」しか載っていないんだよ。だから、髄膜炎のところを読めば「項部硬直が見られる」と書いてある」
S「まあ、そうでしょうね」
D「でも、項部硬直が見られる髄膜炎とは限らないだろ。そういう存在をこういう薄いテキストは捨象してしまう。イヤーノートは分厚いけど、内容は薄いんだ。それでも、国家試験には受かる。国家試験には典型例しかでないからな。不適切問題にされるのは嫌だろうし。でも、生身の患者は違う。非典型例がむしろ多いんだ。平均点77点のテストで、本当に77点取っているやつは少数派なんだ」
S「うーん。なるほど」
第39回「オーセンティックな教科書を使わせよう」その1 終わり
続く。
この物語はフィクションであり、DとSも架空の指導医です。
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