D「最近は、S先生も研修医に教え込むだけじゃなくて、ちゃんと質問もさせてるみたいじゃないか」
S「ええ、確かに質問させると研修医は能動的になりますし、自分たちが分かっていないところに光を当てますから、とてもよいですね。よい教え方を学びました。ありがとうございます」
D「お、なんか、いつになく素直だな」
S「ぼくはいつだって素直ですよ。ひねくれてるのは、D先生でしょ」
D「さあ、S先生も、少し進歩したようだから、もうワンステップ上を目指してみようか」
S「ええ?あれで完成形じゃなかったんですか?」
D「当たり前だろ。教育に完成形なんてない。たどり着いたと思った瞬間、さらなる上を目指すのだ。必殺技が出来たと思っても、必ず破るやつが出てくるんだ。それで、血を吐くような訓練の末に、新必殺技を開発する。少年漫画の基本だろ。「キン肉マン」とか「はじめの一歩」読んでないの?」
S「読んでませんし、少年漫画が教育に役に立つとは思いませんし、それにこれは必殺技の話じゃありません」
D「ばかだな。こういうのをアナロジーっていうんだ。例え話もわかんないのか?」
S「何のたとえになってるんです?」
D「要するに、これから訓練してNEWホールドを編み出せってことだよ」
S「キン肉バスターが6を9にひっくり返されたんで、キン肉ドライバーですか?」
D「ちゃんとついて来てるじゃないか。いつの時代の指導医だ?君は」
S「で、現状の問題点ってどこにあるんです?」
D「研修医が質問するじゃないか、で、君が答えるじゃないか」
S「はい、そうですよ」
D「それがダメなんだよ。研修医が質問してきても、答えを与えちゃダメだ」
S「え~、それって最悪の指導医じゃないですか」
D「それは違う。いいか、君が答えを与えてあげても、彼らは知識をつけるだけで、少しも成長しない。そして初期研修が終わって、優しく答えを教えてくれる、秀才でエリート大学出で、研修医に尊敬されてる若手指導医ナンバーワンと自分で思い込んでるS先生がいなくなったとき、彼らはどうすればよいんだ?」
S「だから、クネクネさせた嫌味を言うのは止めてください。なるほど、魚を与えるな、魚のとり方を教えなさいってやつですね」
D「分かってんじゃないか。それをやらなきゃ、S先生に教えてもらわないと何もできない、S先生の奴隷に成り下がってしまう」
S「奴隷はちょっと言い過ぎでは」
D「じゃあ、下僕でも家来でも家臣でも下々の者でもかまわん。とにかく、質問に答えてくれる指導医がいないと問題を解決できない、優秀な研修医ではあっても決して優れた指導医にはなれない人達になってしまうんだ」
S「うーん、おっしゃるとおりですねえ。でも「自分で調べろ」じゃ、やっぱ不親切な指導医ですよ」
D「だから、そこに仕掛けが必要なんだよ。自称若手指導医ナンバーワンのS先生」
S「そんなこと言ってませんって」
D「思ってもいないか?」
S「ええっと、、いや、、、別に」
D「口ごもんな」
第33回「調べさせよう、調べ方を教えてあげよう」その1 終わり
続く。
この物語はフィクションであり、DとSも架空の指導医です。
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