注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
HIV感染のない市中発症の不明熱において、細菌感染が原因であることを強く示唆する所見はあるか
不明熱のタイプには1991年にDurackとStreetが提唱した4つの分類、つまり古典的不明熱、院内不明熱、好中球減少性不明熱、HIV関連不明熱がある。古典的不明熱とは、38.3℃以上の発熱が3週間以上持続し、2回の外来または3日間の入院検査でも原因がはっきりとしない病態を指す1)。この度は、上記のテーマのようにHIV感染がなく、院内発症でない古典的不明熱において、細菌感染に起因していると同定するのに有用な所見について調べた。その結果、不明熱の鑑別における血中マーカーの有用性を研究した論文があったので、それをもとに考察をしたいと思う。
Cui-Pingらは2009~2015年の間に、不明熱と診断された383人の患者において、一般的な炎症マーカーの診断的価値について調査を行った。その結果、325人(84.9%)が最終的に診断され、原因として感染症(33.9%)、腫瘍(21.1%)、膠原病(25.1%)、その他(4.7%)が挙げられた。感染症、腫瘍、膠原病の3つのグループ間で、白血球数、CRP、赤血球沈降速度の観点では有意な差は認めなかった(p=0.76,p=0.32,p=0.26)。しかし、血清フェリチンと血清プロカルシトニンにおいては3つのグループ間で統計的に有意な差が認められた(p=0.026,p=0.011)。感染症群における血清フェリチンの中央値は、腫瘍群と膠原病群におけるそれよりも低値であった(p=0.029,p=0.032)が、腫瘍群と膠原病群の間には有意な差を認めなかった(p=0.24)。その結果とは対照的に、血清プロカルシトニンに関しては、感染症群が腫瘍群と膠原病群よりも高値であった(p=0.016,p=0.007)。さらにいえば、細菌性感染症では非細菌性感染症よりも高い値を示した(4.56±0.58vs.0.43±0.15 ng/mL,p=0.007)。2)また、Kimらは77人の不明熱と診断された患者を対象に、血清フェリチン値を測定し、感染症と非感染症とを鑑別するのに最適なカットオフ値を561ng/mlと結論付けた。3)
以上の結果から、白血球数とCRP、そして赤血球沈降速度は不明熱の代表的疾患の鑑別には有用ではないと考えられる。しかし、血清フェリチンと血清プロカルシトニンは不明熱の鑑別に有用である可能性がある。血清フェリチンは感染症、腫瘍、膠原病のいずれにおいても上昇しうるが、感染症においては他よりも上昇値が低い傾向にある。血清プロカルシトニンは逆に感染症、特に細菌感染において上昇し、その他ではそれほど上昇しない傾向にある。ただ注意しなければならない点として、上に挙げた研究では血清フェリチン値は細菌性感染症と非細菌性感染症との間で比較されていないこと、また両者において個別の病原体や疾患の重症度について評価されていないことが挙げられる。しかし、不明熱における感染症とその他の疾患の鑑別の際にはこれらのマーカーを用いることを考慮しても良いかもしれない。
参考文献1) Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases J.E.Bennett, R.Dolin , M.J.Blaser
2) Diagnostic Value of Common Inflammatory Markers on Fever of Unknown Origin. Liu CP, Liu ZY, Liu JP, Kang Y, Mao CS, Shang J. Jpn J Infect Dis. 2016 Sep 21;69(5):378-83.
3) Diagnostic use of serum ferritin levels to differentiate infectious and noninfectious diseases in patients with fever of unknown origin. Kim SE, Kim UJ, Jang MO, Kang SJ, Jang HC, Jung SI, Lee SS, Park KH. Dis Markers. 2013;34(3):211-8.
寸評:極めてよくできたレポートです。引用論文も面白かったです。こういうエッジの効いたレポートはよいですね。欲を言えば、データの解釈ではp値だけでなく絶対値を出しましょう。細菌感染症のフェリチンと非感染症のフェリチンはどのくらい違うのか、絶対値が重要になります。また、「細菌感染」と「感染」は同義ではないのですが、そこがちょっとゴチャゴチャになっています。
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