注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
ステロイド治療中の入院患者とステロイドを使っていない入院患者では院内肺炎の発症率に差は出るかどうか
院内肺炎(Hospital-acquired pneumonia: HAP)とは、入院後48時間以上経過してから起こる肺炎のことであり、ICUに生じる感染症の25%を占め、HAP自体による死亡率(attributable mortality)は30-50%にのぼる1)。一方ステロイドは細胞性の免疫を抑制し、さまざまな疾患の治療に使われるが、副作用として感染症の増加などに注意しなければならない。では、ステロイド治療中の入院患者では、ステロイドを使っていない入院患者に比べてHAPを発症しやすいのかという疑問が生まれ、課題とした。
Sopena Nらは、2006年から2008年の間に入院し、HAPを起こした119例のそれぞれに対して年齢、性別、入院日が同じ患者を2例ずつランダムに割り当て、ケースコントロールを行った。この研究ではステロイド治療者をプレドニゾロン60mg/day以上を2週間以上投与していたもしくは5-60mg/dayを3週間以上投与していた者と定義していた。結果であるが、ステロイド治療者の割合は、ケース群で26.1%、コントロール群で26.5%であり(オッズ比:0.98、95%CI:0.59-1.61)、有意差はなかった2)。また、Fortaleza CMらは2005年から2006年の間に人工呼吸器関連でないHAP66例に対して、同時期に入院していた患者をそれぞれ1例ずつランダムに割り当て、ケースコントロールを行った。結果は、こちらはステロイドの使用量が記載されていなかったが、ステロイド治療者の割合はケース群で12.3%、コントロール群で21.2%となり(p=0.17)と有意差はみられなかった3)。一方、Barreiro-López Bらは、1997年から1999年の間に人工呼吸器関連ではないHAP67例それぞれに年齢、性別、入院日が同じ患者を1例ずつランダムに割り当て、ケースコントロールを行った結果、こちらもステロイドの使用量が記載されていないが、ステロイド治療者は、ケース群で32例(48%)、コントロール群で16例(24%)であり(p=0.003)、有意差を認めた4)。
以上より、研究によってステロイドがHAPを引き起こす素因となるかどうかは研究により異なってしまい結論が出せない。結果のばらつきが生まれる原因として考えられるのは、HAPの定義の違いやステロイドの使用量を定義しているかしていないかの違いなどが考えられる。上記三つの研究の中で、ステロイドの量を明確に定義していた一つ目の研究を、よりエビデンスの高いものととらえれば、プレドニゾロン60mg/day以上を2週間以上投与していたもしくは5-60mg/dayを3週間以上投与していた入院患者はそうでないものと比べてHAPの発症率に差はないといえる。
・引用文献
- レジデントのための感染症診療マニュアル 第3版 青木眞
- Sopena N, Heras E, Casas I, Bechini J, Guasch I, Pedro-Botet ML, Roure S, Sabrià M. Risk factors for hospital-acquired pneumonia outside the intensive care unit:A case-control study. Am J Infect Control. 2014 Jan;42(1):38-42.
- Fortaleza CM, Abati PA, Batista MR, Dias A. Risk factors for Hospital-Acquired Pneumonia in nonventilated adults. Braz J Infect Dis. 2009 Aug;13(4):284-8.
- Barreiro-López B1, Tricas JM, Mauri E, Quintana S, Garau J. Factores de riesgo y pronósticos de la neumonía nosocomial en los pacientes no ingresados en unidades de cuidados intensivos. Enferm Infecc Microbiol Clin. 2005 Nov;23(9):519-24.
寸評:命題は興味深いものでした。引用した研究もrelevantなものだったと思います。ただ、用語の間違いが目立ちます。たとえば「ケースコントロールを行う」という日本語はありえません。また、各動詞に対応する主語があいまいなので、読者がそれを解釈しなければならないのも問題です。たとえば「HAPを起こした119例のそれぞれに対して年齢、性別、入院日が同じ患者を2例ずつランダムに割り当て」は誰に何を割り当てたのか、「わかる人にしかわからない」文章です。ケースコントロールスタディーとはなにか、をしっかり咀嚼していればこういう文章にはならなかったはずです。このへんはスーパーバイザーの問題なのかもしれませんが。
A4一枚という小さなスペースでも、正確で誰もが同じように機会できる論理的な文章を書くのは大変で、不幸なことにあなた達はそういう訓練をほとんど受けていません。これにこりず、そしてこれにめげずに精進しましょう。結語への持っていき方は悪くなかったと思います。
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